伊勢谷武さんの新作『ヒミコの暗号』を読んで
「人類は歩いてきた──いや、漕いできたのだ。」
ページをめくるごとに、そんな言葉が脳裏をよぎった。
6月30日に発売された伊勢谷武氏の最新作『ヒミコの暗号』は、著者が『アマテラスの暗号』『銃弾の真実』で築き上げた歴史と科学を横断する知的興奮の系譜を受け継ぎつつ、新たに「欠史八代」──第2代綏靖天皇から第9代開化天皇までの8代天皇と卑弥呼との繋がりという難題に挑む。
本書が描くのは、文字史料の乏しさゆえ「存在しなかった」とすら言われる欠史八代の時代背景を、縄文文化、火山噴火、そしてDNA解析から再構築する試みである。
特に印象的だったのは、我々ホモ・サピエンスの移動史に関する記述だ。
かつて人類はアフリカを出てユーラシア大陸を歩き、シベリアからベーリング地峡を越えてアメリカ大陸に至ったと教わった。だが近年の考古学は異なる仮説を示唆している。
人類は、海を渡ってきた。
南インドから東南アジアを経て、舟でインドネシア群島を越え、5万年前にはオーストラリア大陸に到達していた。
この研究なしには、本書の壮大な叙事詩は成立しないだろう。
日本列島への渡来経路もまた、海の物語だ。黒潮という太平洋西岸の高速道路を、フィリピンから台湾、琉球列島を経て九州へと舟で辿る。単なる想像ではなく、黒潮流域遺跡群がこれを裏付ける。人類は舟を操り、海を渡り、陽の昇る東の水平線を目指してきた。
本書ではさらに、縄文時代に日本で起こった二度の破局噴火──3.9万年前の姶良カルデラ噴火と、7300年前の鬼界カルデラ噴火が、文化を破壊しつつも再編成し、新たな文明の萌芽を育む様子が描かれる。
『ヒミコの暗号』は、古代史を越えて、太陽と風と水の記憶に刻まれ、あなた自身の中にある「海を渡るDNA」の記憶。
すなわち日本人の根源的な旅の物語でもある。多くの学者が指摘する様に、日本の文化は中国由来のものでは無く、日本独自のものなのだ。
ウォー・ギルト・インフォメーション・プログラム(英語:War Guilt Information Program)、すなわち大東亜戦争終結後、連合国軍最高司令官総司令部が日本占領政策の一環として短期行ったといわれる日本国民に対する再教育計画の影響で、戦後80年が経過しても正しい歴史を教える事ができない日本。
啓発本として、全ての日本人に読んでもらいたいと思う。