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BLOG 藤本幸弘オフィシャルブログ

【新国際学会周遊記──麻はなぜ「禁止」になったのか】

【新国際学会周遊記──麻はなぜ「禁止」になったのか】

日本文化を歩けば、いたるところに「麻」の影を見つけることができます。縄文時代の遺跡から出土する繊維片。奈良の正倉院に眠る麻布。伊勢神宮の注連縄や、相撲の横綱の綱にいたるまで──麻は「清浄」を象徴する神具であり、庶民の衣服であり、農村の重要な収入源でもありました。そこには、今日の「禁止薬物」というイメージは微塵もありません。

ところが戦後、その歴史は急転します。1945年の敗戦、日本はGHQの占領下に置かれました。アメリカではすでに1937年に「マリファナ課税法」が施行され、精神作用を持つTHCを問題視する潮流が広がっていた。

その流れが、そのまま日本にも輸入されたのです。1948年、「大麻取締法」が制定され、数千年続いた麻との共生は「栽培・所持の禁止」という強硬な規制に置き換えられました。

ここで忘れてはならないのが、時代の産業構造の変化です。戦中戦後、軍需資材として重宝された麻繊維は、デュポン社のナイロンをはじめとする合成繊維に代替されつつありました。つまり、国際政治の力学と産業界の利害が交差した結果、日本の麻は「伝統文化の象徴」から「禁止薬物」へと姿を変えてしまったのです。

しかし完全に消えたわけではありません。現在でも、神社の神具や伝統織物のために、免許を持つ農家が細々と麻を育て続けています。たとえば栃木県鹿沼市や群馬県の一部地域では「大麻取扱者免許制度」の下で栽培が続けられており、日本文化の命脈をつないでいるのです。

大麻に含まれる代表的な成分には THC(テトラヒドロカンナビノール) と CBD(カンナビジオール) の2つがありますが、作用は大きく異なります。

1. 精神作用の違い

THC:いわゆる「ハイ」になる精神活性作用を持つ成分。脳のカンナビノイド受容体(特にCB1受容体)に強く結合し、多幸感・陶酔感・感覚の変化を引き起こします。依存性や不安・幻覚など副作用も報告されています。

CBD:精神活性作用はほとんどなく、むしろTHCによる不安や幻覚作用を和らげる方向に働くことが知られています。

2. 医学的作用の違い

THC
鎮痛作用
食欲増進(がんやHIV患者の悪液質対策に使用)
吐き気の抑制(化学療法の副作用軽減)
ただし精神症状や認知機能への副作用あり

CBD
抗けいれん作用(特に小児難治性てんかんに有効:EpidiolexとしてFDA承認済み)
抗不安作用
抗炎症・神経保護作用の研究進行中
依存性や乱用リスクはほぼなし

3. 合法性・規制の違い

日本ではTHCは麻薬及び向精神薬取締法で厳格に規制されており、医療用途を含め一切使用不可。
CBDは精神作用がないため、一部製品(THCを含まないもの)に限って輸入・販売が認められています。
世界では医療大麻の議論が進んでいるその一方で、日本の規制は依然として「精神作用の有無を問わず大麻草一律禁止」という戦後の枠組みに留まったままです。

つまり、麻の歴史は「文化」と「科学」と「政治」がせめぎ合う場であり続けているのです。縄文から現代へ、麻は常に社会の鏡であり、その扱い方こそが時代精神を映し出しているのではないでしょうか。


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