新国際学会周遊記──ドクターの数え方の妙
世界を旅して学会に出ていると、肩書きひとつにも文化の違いが現れる。
Mr. (ミスター):男性全般に使う敬称。
Ms. (ミズ):女性に使う敬称で、既婚・未婚を問わず。
Mrs. (ミセス):既婚女性に使う敬称。
Miss (ミス):未婚女性、特に若い女性や女の子
Mx. (ミクス):性別を問わず使われるニュートラルな敬称
Dr. (ドクター):医師や博士号を持つ人に使われる敬称
Prof. (プロフェッサー):大学教授に使われる敬称
Missだけは最後にピリオドがつかないんです。
さて、「Doctor」とは何を意味するのか。医師か、研究者か、それともその両方か。
僕自身、レーザーの研究治療を進めていくうえで、エビデンスを取得して専門性を高めるために、医学博士に始まり、工学、薬科学、そして経営管理学と研究を続けて、気づけば博士号が四つになった。
それ以前に、医師免許を持つので、「五冠のドクター」ということになる。こうした肩書きをどう表現すべきか──これはなかなか面白いテーマだ。
◆Dr. という肩書きの重み
「Dr.」が持つ響きは、西洋と日本とで大きくニュアンスが異なる。
〇西洋における Doctor の意味
語源はラテン語の docere(教える)。学問を究め、人を導く立場を示す称号である。
医師(M.D.)も博士(Ph.D.)も同様に「Doctor」と呼ばれ、社会的に高い敬意をもって扱われる。
イギリスではかつて、医師は Mr. と呼ばれ、逆に博士号保持者こそが Doctor とされた歴史がある。
一方アメリカでは「Doctor=医師」というイメージが強く、医師が「Dr.」と名乗るだけで社会的信用が担保される。
僕も博士号の価値をきちんと理解したのは海外に行くようになってからだ。
〇日本における「博士」と「医師」
日本では「博士号」=研究者の学位、「医師」=国家資格、と区別して理解されることが多い。
そのため博士号を持つ医師は珍重されるが、日常生活の中では医師は「先生」、研究者は「教授」や「博士」と呼ばれるにとどまり、「Doctor」という称号の社会的重みは西洋ほど強くない。
欧米であれば「博士号4つ」という事実は直感的に大きなインパクトを持つが、日本では意外と伝わりにくいのが実情だ。
今回最新著書である「AI時代の新勉強法」を書くにあたり、僕の肩書としてはクワドラプル(シングル→ダブル→トリプルの次、4つのという意味を持つ)ドクターにするか、医師免許を入れてクインティブル(5つのという意味を持つ)ドクターにするべきか、編集者の人とずいぶん話し合った。

◆クワドラプルドクター──数字のインパクト
まず耳に心地よいのが「クワドラプルドクター」。
4という数字は東西を問わず「四大元素」「四季」「四方」に象徴されるように、全体性と安定を意味する。博士号を4つ持つという事実を、シンプルかつ力強く伝えるのに最適な表現だ。
学会や研究の場で「Quadruple Doctor」と自己紹介すると、相手の目がぱっと見開くのを感じることがある。まさに数字が持つインパクトである。
◆クインティプルドクター──包括の響き
しかし僕には、博士号の前にまず「医師」という出発点がある。
その存在を加えれば、実は「五重構造」となる。ここで登場するのが「クインティプルドクター」だ。
5という数字は東洋では五行、西洋ではペンタグラムと結びつき、完全性や調和を象徴する。
医師であり、研究者であり、経営者でもある──その多面的なアイデンティティを示すのにふさわしい。
ただし「クインティプル」は耳慣れないため、一般向けには少し説明を添える必要がある。
multi-doctorate holder──学術的な正確さ
一方、フォーマルな学術の場では multi-doctorate holder という表現が便利だ。
「複数の博士号保持者」という淡々とした言い方ではあるが、履歴書や論文プロフィールにはむしろ相応しい。
キャッチーさはないが、国際的には誤解なく伝わるのが利点だ。
◆使い分けの戦略
結局のところ、肩書きは場面に応じて切り替えるのが一番だ。
学術的プロフィール → multi-doctorate holder
学会や研究発表の場 → Quadruple Doctor
一般講演やブランディング → Quintuple Doctor
肩書きは単なる飾りではない。伝えたいメッセージをどう切り取るかの道具である。
数字の響きと文化的背景をうまく織り交ぜれば、自己紹介そのものが一つの物語になる。
「クワドラプル」か、「クインティプル」か、それとも「マルチ」か──。
呼び名の選択そのものが、学問と臨床、そして人生を横断する僕自身の旅の象徴なのだ。
