TakahiroFujimoto.com

HOME MAIL
HOME PROFILE BOOKS MUSIC PAPERS CONFERENCES BLOG MAIL CLOSE

BLOG 藤本幸弘オフィシャルブログ

医学と人体の複雑さ

僕が医学部にいっていた80年代から90年代は、細菌も、ホルモンも、解剖も、遺伝子も、心電図や脳波も発見され、目に見えるものに関しては、医学が万能感に満たされた、わかった気になっていた時代だったのではないかと思います。

解剖学上で機能がわかっていなかった虫垂や脾臓を、炎症や外傷が起こったので乱暴にとってしまったりしたわけです。

しかしながら、この30年で医学には飛躍的な発見や進歩が起こりました。

例えば、チンパンジーと97%も同一であるDNA遺伝子は、ごみの様な無駄な情報ばかりだと教科書にも書いてありましたが、今ではそのゴミだと思われた部位にたくさんの情報が書き込まれており、唾液からDNAを取得すると、あたかもモンタージュ写真に近いような顔写真が合成できるような時代になったのです。

脂肪細胞や筋肉細胞、さらには腎臓の細胞に至るまで、体内の多くの細胞が、気の遠くなるほどのメッセージ物質をやり取りしていることがわかってきましたし、60兆の体内の細胞に対して100兆もの腸内細菌が独自のネットワークで生体の感情までもコントロールしている可能性があることも明らかになりました。

つまり、人体は、人間が想定していたよりもはるかに複雑であったという事なのです。

============

例えば、日本は、山中教授のiPS細胞のノーベル賞により、国策の一つにしようと思ったのでしょう。幹細胞系の治療に対する基準が他国に対してとても緩くなっているのです。

本来であれば実験検証レベルの事が、臨床利用されてしまっている現状があり、世界トップの科学雑誌から名指しで指摘されているような現状があります。

肌の再生の分野であれば、幹細胞系の治療を行うことで、若返りを期待できると、多くの施設がこの治療を推奨しています。

しかしながら、生物学の常識からすると、皮膚や神経組織などの外胚葉由来の細胞は、基本的に幹細胞が末梢に出ることはなく、再生しないもの。

万が一、角膜や網膜を怪我してしまったとして、この幹細胞点滴治療で視力が回復しますと言われ、その治療を信じられるでしょうか?

=============

やはり生物学に属する医学は100%正しい解法はなく、多くのケースを想定して総合点で高い解法を選択する学問。

多くの事象を予想できるかどうかは、医師であることは関係ない。全く予想を反した動きが出ることもあります。最新治療のエビデンスを取得するという事は、かくも難しく、複雑なことだなあと思うのです。

==============

人間を取り巻く環境はあまりにも複雑になり過ぎていると考え、「シンプルな人生を生きたい」と思う人は少なくありません。

しかし、シンプルになってしまうことは「老化の兆候である」と、ハーバード大学医学大学院で老化について研究するLewis A. Lipsitz氏が述べています。

Did Henry David Thoreau Know the Secret to Eternal Youth, Or Was He All Wrong?

http://nautil.us/…/the-real-secret-of-youth-is…

若々しさと健康は多くの点で「複雑性」と関連しているとLipsitz氏は主張しています。

例えば、骨の強度は結合組織の精巧な足場からなり、脳の働きは複雑なニューロンの網から構成されます。また、心臓の鼓動のように一見するとシンプルな身体機能でさえ、代謝や神経の伝達、遺伝子のスイッチ、概日リズムといった要素の相互作用からなっているとのこと。

Lipsitz氏は老化によって人体からはこれらの複雑さが失われてしまうと、老化や病気などにつながると述べています。

人体の複雑さを理解するには、「複雑」という言葉が科学的にどういう意味なのかを理解する必要があります。

複雑でないものの例として、Lipsitz氏はピタゴラ装置を例に挙げています。いくつもの仕掛けからなるピタゴラ装置は一見すると非常に複雑なものに見えますが、実際には特定の入力パターンに対して特定の出力を行うだけであり、科学的に考えると振る舞いが予測しやすく、複雑とはいえません。また、途中の1箇所を切断するだけで装置が機能しなくなるため、システムは脆弱であると。

一方で「科学的に複雑なプロセス」では、多くの機構が空間や時空において複数のスケールで相互作用します。相互作用は非線形なものであり、特定の入力が特定の出力につながるとはいえず、不安定で予測不能なものとなります。

たとえば、人間が足を上げるためには感覚器官が周囲の状況を把握し、神経が筋肉へシグナルを発します。このとき筋肉は足を動かすためにタンパク質を作り出し、エネルギーとなる糖が必要な場所へ送られるといった複雑な相互作用が発生することになります。このような人間の働きは科学的に複雑だと。

つまり、複雑さが、人間が人間たる所以であり、社会的なつながりも複雑であればあるほど、つまり広範で多様なネットワークを維持している人ほど健康と幸福が得られるという研究結果もあります。

畢竟、人間がより人間らしく若々しく生きるためには、体内体外共に、複雑性が必要なのです。

あと数年後の次世代の科学は、分析ツールとして量子コンピューターを手に入れることができるわけですし、AIもさらに発達するでしょうが、果たして神の造りし人体の複雑性に対応することができるのでしょうか?

科学者として楽しみです。

この写真は本文とは関係無いのですが、何を見ているでしょうか?


カテゴリー