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【“老”と“病”をどう受け入れるか──医療と仏教が交わるところ】

【“老”と“病”をどう受け入れるか──医療と仏教が交わるところ】

「先生、人間って、なぜ老いるんでしょうね。」

ある患者さんがふと投げかけたその一言が、今も心に残っています。

それは何気ない雑談のようでもあり、同時に、医学と哲学の両方にまたがる深い問いかけでもありました。

医療の現場にいると、私たちは日々「老い」と「病」と向き合います。

それは単なる身体の変化ではありません。

時にそれは、人生観そのものを揺るがす体験となり、「これからどう生きていくのか?」という問いを、静かに突きつけてくるのです。

■ 仏教が語る「苦」の正体──四苦八苦という人間の設計図
仏教には、「人生は苦である」という有名な教えがあります。
これは決して悲観ではなく、「現実を直視する」知恵として2500年前から語り継がれてきました。
この「苦」を体系化したものが、**四苦八苦(しくはっく)**です。
まず、四苦とは:
生苦(しょうく):生まれることの苦しみ。胎内にいる時から始まる。
老苦(ろうく):老いていく苦しみ。体も心も思うように動かなくなる。
病苦(びょうく):病にかかる苦しみ。不安や痛み、制限が伴う。
死苦(しく):死を迎える苦しみ。未知なるものへの恐れと別れの哀しみ。
これに加えてさらに四つ:
愛別離苦(あいべつりく):愛する人と別れなければならない苦しみ。
怨憎会苦(おんぞうえく):嫌な人と会わねばならない苦しみ。
求不得苦(ぐふとっく):望んでも得られないことへの苦しみ。
五蘊盛苦(ごうんじょうく):自我を構成する心と身体が暴走し、執着が生む苦しみ。
仏教は、これらすべてが人間にとって避けがたい“基本設定”だと教えます。ただし、それにどう向き合うかは、修行と智慧によって変えることができると説くのです。

■ 「老苦」──抗わず、観る
老いに関して、現代医学はサルコペニアやホルモン低下、神経変性など、明確な知見を積み上げてきました。しかし患者さんが感じているのは、データには表れない「役割の喪失感」や「孤立感」、そして「もう若くはない」という寂しさです。
ここで仏教が語るのが、「無常(むじょう)」という概念です。
「すべてのものは変化し続けている。変化を拒むことが、苦しみを生む。」
老いは“敗北”ではありません。
むしろ、執着を手放し、変化を受け入れる修行としての時期でもあるのです。
さらに「空(くう)」という考え方も重要です。
これは、「すべてのものには固定された実体はなく、縁によって成り立っている」という世界観です。
老いが「悪」であり、若さが「善」という二元論を手放すとき、
人はようやく“今の自分”に戻ることができる。医療も、老いを「治す対象」から「共にある過程」へと再定義すべき時が来ていると感じます。

■ 「病苦」──治すだけでは届かない場所
病にかかると、人は「なぜ自分が?」という問いに苦しみます。
それは単に痛みや不便さの問題ではなく、「自分は役に立たない存在になったのではないか」という深いレベルの動揺です。
仏教では、これに「縁起(えんぎ)」という概念で応じます。
すべての出来事は、単独で生じるのではなく、無数の因と縁が重なって起きている。
この見方は、「誰かのせい」「自分のせい」といった責めの感情から患者を解放します。病気は“意味”を持っているわけではないかもしれない。でもその病とどう向き合うかには、無限の可能性があるのです。
そして、正念(しょうねん)──今この瞬間に意識を戻すマインドフルネスの実践も、病と共にある日々に大きな力を与えてくれます。
「今、私は呼吸をしている。今、私は生きている。」
この気づきこそが、不安や絶望を少しずつ和らげていきます。

■ 医師と僧侶、二つの視座を持つということ
私の祖父は、日蓮宗の僧侶として活動した後、第一高等学校から医学の道に進んだ明治時代の医者でした。その背中を見て育った私も、医師としての臨床の中で、50歳を超えたころに、仏教の世界に足を踏み入れることになりました。

「医療の知見」と「仏教の叡智」
これは決して二項対立ではなく、“癒し”という共通目的を持った、異なるアプローチの手段なのです。
医師としての私は、病のメカニズムを説明し、治療を提供する。
僧侶としての私は、病と共にある“心の時間”に寄り添う。
その両方があってはじめて、全人的な癒しが可能になると感じています。
仏教は、苦しみを否定しません。
むしろそれと丁寧に向き合い、そこにある「変化の種」を見出そうとします。
それは、まさに今の医療に必要な視点です。
老いと病を抱える社会で、
「何を治すか」だけでなく、「どう寄り添うか」が大切になってくるのです。
今、過重労働・共感疲労・人間関係の摩耗に悩む医療従事者が増加増加しています。
現代医療教育では、「心の扱い方」や「死生観」に触れる機会がほとんどない
宗教的な押し付けではなく、仏教が持つ2500年の“心の取り扱い説明書”としての知見が役立つ場面が多いと思うのですよね。
今後は、医療者のための仏教的マインドマネジメント講座みたいなものにも取り組んでみたいですね。


ゴルフ医科学研究所で開催された「響墨の会」

本日ゴルフ医科学研究所で開催された「響墨の会」。

パフォーマンス書道とソプラノの共演でしたが、盛況に終わりました。

聴覚と視覚による脳にゴツゴツ刺さる芸術的な感動。

大脳が活性化してるのを感じられる会でした。

素晴らしい刺激もらいました。

明日から頑張れます!

https://www.facebook.com/1486146253/videos/pcb.10237416974312237/674148535584054

https://www.facebook.com/1486146253/videos/pcb.10237416974312237/696962252813687

 

 


大型バッテリー

連休中日の本日も、クリニックFで診療中でした。

レーザークリニックとしては電源の確保にとにかく神経質になります。

僕が千代田区に開業している理由は、省庁のある千代田区は優先的に電源が配給されるのではないか?と思ったからでした。

その予想はあたり、東日本大震災の時も、電源が一度も止まることはありませんでしたね。

ところで手に持っているもの。なんだかわかりますか?

これは大型バッテリーです。

もちろんクリニックにも置いていますが、別の用途としては、車のバッテリーの予備電源。

最近の車はバッテリーがあっという間に上がり、電源につないでいないと全く動かなくなり、電池交換に大枚をはたかないといけないものもあります。

この予備バッテリーを車内に入れて、バッテリー充電器をつないでおけば、数か月の間バッテリー上がりを防げるのです。

海外出張の多い僕にとっては結構大切な命綱なんですよね。

一回フル充電しておくと、適宜必要量だけ補充してくれます。

困っている人にはおすすめします。

 


バイオビジネスについて

投資会社に勤める友人から、あるバイオ企業について、投資案件になるのか意見を聞かれました。

僕も、卒業こそしていませんが慶應義塾大学経済学部に籍を置いていましたし、経営観理学修士号(MBA)と経営観理学博士号(DBA)取得者として、ちょっと思うことがあったのでブログにまとめますね。

経営学の世界では、ビジネスがどのように成長するか「足し算」なのか、「掛け算」なのかで成功への道筋が違います。

たとえば、バイオビジネスは典型的な「足し算」ビジネスです。

バイオビジネス、とりわけ医薬・再生医療・バイオマテリアルなどの分野は、基礎研究→動物実験→臨床試験→薬事承認→製造販売と、プロセスが階段のように一段一段積み上がっていくビジネスです。

新薬開発の成功確率について、Boston Consulting Groupが示したデータでは、「医薬品の開発は、初期段階から市販化に至るまでの成功確率は約1/5000」(Nature Reviews Drug Discovery, 2010;9(9):640-641)とも言われています。

つまり、
一歩進めば一歩成果が出る(しかし歩幅は小さい)
失敗したら、また前のステップに戻る
資本と時間を地道に積み上げる
この「一歩一歩の積み上げ」=足し算ビジネスというイメージがぴったりなのです。
ここを無理して掛け算にしようとした案件が良くも悪くも話題に上がるmRNAワクチンなのではないでしょうか。

市場拡大プロセスは、
「技術確立 × 緊急需要 × 巨大資本投入」という流れでしたね。

一方で
エネルギービジネスは「掛け算」だと思います。
エネルギービジネス。たとえば再生可能エネルギー(太陽光・風力・地熱)や次世代バッテリー技術の分野では、
「技術ブレイクスルー × 大規模資本投入 × 政策支援」という、掛け算の連鎖で一気に市場が膨張する構造が特徴です。
近年の例では、リチウムイオン電池革命が代表的です。
たとえば、パナソニックとテスラのギガファクトリー建設は、単なる製品開発ではなく、製造規模を10倍にすることでコストを5割削減し、結果的に電気自動車市場全体を押し上げました(Nature Energy, 2017;2:17013)。

掛け算ビジネスは、
スケールメリットが効き、爆発的成長が可能
一度成功すれば、周囲の関連市場も一気に巻き込む
ただし、初期投資も巨大で失敗リスクも極めて高い
この「一つの技術革新が市場をドミノ式に動かす」=掛け算ビジネスに例えられるわけです。
こうして考えると、既存のビジネスの成功モデルもこの二通りで分類できると思います。

1. ITビジネス:掛け算の典型
特に「プラットフォーム型ビジネス」(Google, Apple, Amazon, Metaなど)は、
ユーザー数 × 利用時間 × マネタイズ率
で収益が爆発的に伸びる世界です。
たとえばFacebook(現Meta)は、創業からわずか5年で5億人ユーザーを突破(The Facebook Effect, David Kirkpatrick, 2010年)。
完全に掛け算で世界を席巻しました。
➔ IT(特にプラットフォーム)は「掛け算型」

2. 不動産ビジネス:基本は足し算、ただし例外あり
物件を一つずつ取得
賃料収入を一つずつ積み上げ
この点で、通常の不動産投資は足し算型です。
ただし、都市開発やリート(REIT)など、大型化してファイナンスが動き出すと、
資金調達×物件取得×再開発
で「掛け算型」に化けることもあります(Journal of Real Estate Research, 2019;41(2):221-245)。
➔ 小規模不動産は「足し算」、REIT化すると「掛け算」

3. 飲食ビジネス:足し算型が基本
飲食業界では、
席数 × 回転数 × 単価
で売上が決まります。
一店舗ずつ手堅く展開するモデルです。
たとえば、スターバックスが初期段階で一店舗ずつ地道に広げていった事例(Onward: How Starbucks Fought for Its Life without Losing Its Soul, Howard Schultz, 2011)が有名です。
ただし、
フランチャイズ展開
グローバル展開
が成功すると、ここから掛け算モードに入ることもあります。
➔ 個店飲食は「足し算」、フランチャイズ成功で「掛け算」

4. ラグジュアリービジネス:掛け算型
ハイブランド(例:エルメス、ルイ・ヴィトン)のビジネスは、
ブランド力 × 購買意欲 × 世界人口
という掛け算が効きます。
たとえば、LVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)は、コロナ禍でも成長を維持し、2022年には過去最高益を記録(LVMH Annual Report, 2022)。
これも、ブランドビジネスが「掛け算型」である証拠です。
➔ ラグジュアリービジネスは「掛け算型」

5. 教育ビジネス:足し算型が中心
生徒数 × 授業数 × 単価
で収益を積み上げます。
特に塾・予備校などの教育ビジネスは、地道に生徒を増やすスタイルが主流。
たとえば、日本の駿台予備学校は、創業から70年以上かけて少しずつ全国展開してきました(駿台予備学校創立70周年記念誌, 2015)。
ただし、EdTech(教育×IT)が絡むと、
生徒数×地域制約ゼロ×オンライン授業
で掛け算型に変わるケースも増えています。
➔ 伝統教育は「足し算」、EdTech成功で「掛け算」

つまり、
「足し算ビジネス」と思われていたものも、条件がそろえば掛け算に化ける。
最初から掛け算を狙うと失敗することも多いので、まずは堅実に足し算で基礎体力をつけることが大切ということですね。

【未来予測】これから「掛け算化」するビジネス領域を考えてみると、自分としては最初に挙げたレーザー核融合によるエネルギー企業以外には

1. 合成生物学(Synthetic Biology)
合成生物学は、DNAをプログラムするかのように設計して、新しい生物機能を作り出す技術です。
かつてのバイオテクノロジー(=足し算型)とは違い、今や
「設計→製造→量産」
が可能になりつつあり、爆発的な市場拡大の可能性を秘めています。
特に期待されている分野:
人工肉(培養肉)
バイオ燃料
新規ワクチンプラットフォーム
すでに、米国のスタートアップGinkgo BioworksはNASDAQ上場を果たし、世界中から注目を集めています(Nature Biotechnology, 2021;39(11):1345-1346)。
予測:バイオものづくり市場が、掛け算成長に入る可能性極大。

2. 量子コンピュータ(Quantum Computing)
量子コンピュータは、通常のコンピュータの「計算速度」を数万〜数億倍にするとされる次世代技術です。
今はまだ試作段階ですが、Googleが2019年に量子超越性(Quantum Supremacy)を発表したのを皮切りに(Nature, 2019;574(7779):505-510)、急速に現実味を帯びています。
用途は、
医薬品開発(分子シミュレーション)
金融市場の最適化
材料科学(新素材設計)
と多岐にわたり、一度実用化すれば世界中で一気に需要が爆発するとみられています。
予測:数年以内に「ポストAI」として、掛け算成長が始まる。

3. カーボンリサイクル(Carbon Recycling)
脱炭素(Decarbonization)への動きは世界規模の大潮流になっています。
中でも注目されているのが「カーボンリサイクル」=CO₂を資源化する技術です。
たとえば、
CO₂から燃料を作る(e-fuel)
CO₂からプラスチックを作る
といった試みが進んでいます。
三菱重工、トヨタなども国家プロジェクトで本格参入しており、
Nature Reviews Materials, 2022;7(10):763-784
では「カーボンリサイクルが2050年に向けた最重要産業」とされています。
予測:カーボンリサイクル技術の確立次第で、エネルギービジネス全体が掛け算的に刷新される。

4. ヘルステック×AI(Healthtech + AI)
すでにある程度浸透しつつありますが、特に予防医療領域とパーソナライズド医療(個別最適化医療)で、
センサーデータ
遺伝子情報
ライフログ
などをAI解析し、未来の病気を予測する技術が急速に進んでいます。
最近の例では、DeepMind(Google傘下)が乳がん予測AIを開発し、従来の専門医よりも高い精度を達成したと報告(Nature, 2020;577(7787):89-94)されています。
予測:データ蓄積×AI解析が一気に掛け算モードに入り、ヘルスケアの姿を大きく変える。

5. 空飛ぶクルマ(Urban Air Mobility)
かつては夢物語だった「空飛ぶクルマ」が、今や実証段階に入っています。
米Joby Aviation、日本のSkyDrive、ドイツのVolocopterなど、世界中で開発が進行中。
特に、2025年の大阪・関西万博で空飛ぶタクシー実証が予定されており(Advanced Air Mobility Report, NASA, 2022)、現実味が急加速中です。
予測:インフラと規制整備次第で、都市交通市場が丸ごと掛け算式に変革される。
こんな感じですかねえ。


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