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COLUMN

コラム「音楽は名医」
5. 音楽で不眠がスッキリ。副交感神経に働きかけて眠りやすい体に。

5. 音楽で不眠がスッキリ。
副交感神経に働きかけて眠りやすい体に。

不眠で悩む方には聞けば様々な悩みを抱えられている方も少なくありませんが、共通して言えることは自律神経のバランスが総じて崩れているということです。

これを立て直すには、食生活を始めとした生活習慣の改善や運動不足の解消に加え、現代の世の中では「『視覚』習慣」の改善といったことも非常に重要となります。

このコラムの第一回で「視覚では、いったん脳で画像が整理され好き嫌いを判断しますので、見たくなければ目を閉じることができます。」と書きました。

これは逆に言うと、見たいもの、どうしても気になるものを人はついつい見てしまう、ということでもあります。

不眠を考えるとき、この視覚について考えることは他の生活習慣と同様、非常に有益です。

裸眼に限定せず、眼鏡やコンタクトレンズといった助けも要しながら通常レベルの視覚を有している場合、その人は感覚情報のおよそ80%を視覚情報から得ていると言われています。

五感の中でも視覚から人が得る情報はずば抜けて多く、目が開いている間ヒトは目に見えるあらゆる情報を脳に取り込み整理を試みます。

このコラムではここまでに自律神経の話を多くしていますが、視覚を自律神経的な側面から考えてみると、瞼が開いている間ヒトの自律神経は常に交感神経優位となり、「闘争と逃走」モードになっているということが言えます。

電子機器の発達により、一昔前は限られた人間しか扱うことのできなかった最先端の機器類が、スマートフォンや街に煌めくLEDといった形で今では誰にとっても24時間身近な存在となりました。

本来であれば完全な闇に支配される時刻になってもなかなか寝付けないという方は、恐らく日中自分で意識している以上に視覚=目を酷使しすぎており、必要以上の光を捉えすぎているのでしょう。

それにより交感神経が優位に傾く時間が長すぎて、「平和と消化」の神経=副交感神経を優位にすることが容易にできないため、体がいつまでもリラックスできず眠る態勢を作ることがままならない、という状況にあります。

不眠に悩まれている方は、心的ストレス要因について改善を試みることはもちろん、規則正しい生活習慣、栄養バランスのとれた食生活、日中意識して有酸素運動を取り入れてみる、深い呼吸を心がける、夜は出来るだけ胃に負担をかけない軽めの食事を20時くらいまでに済ませる、スマートフォンやパソコン、TVなどの液晶画面から速やかに離れる、お風呂でゆっくりと身体を温め、手足や首、肩といった冷えやすい部位、凝りやすい部位をストレッチなどでほぐし伸ばす・・・といった努力がまず必要です。

これらはすべて副交感神経に優しく働きかけていきますので、コツコツと続けていくうちに自律神経の調整が取れてきます。

理想の睡眠を手に入れるためにこうした取り組みへの努力が必要な一方、そうは言っても環境的になかなかこれらすべてを実行するまでに至らない方も多いことと思います。

そんなとき眠れないからと言ってお酒を飲んだり、睡眠導入剤の力を借りたり、夜中までDVDやスマートフォンで目を酷使する前に出来ることがあります。

それこそが、今回のテーマでもある「音楽の力」を借りるということになります。

◆不眠とホルモン

頭が冴えている=交感神経が優位となって眠れないとき、脳の中で起きている現象としては主にストレスで分泌される「ノルアドレナリン」が増えているということが言えます。

本コラム第2回でも登場したこのホルモンは、脳を覚醒させ集中力や判断力を高めますので、適度な放出は日中活動する時に有効です。

しかしながら、ノルアドレナリンには興奮作用があるため過剰に放出されてしまうとイライラや焦燥が増し、眠るための副交感神経への切り替えを妨げることになります。眠れない夜にはこのノルアドレナリンの活性がなかなか鎮まらないということが起きています。

ここでポイントとなるのが前回もお話した別名「幸せホルモン」「自信ホルモン」と言われる「セロトニン」です。

セロトニンには抗ストレス作用があり、ノルアドレナリンをコントロールし、ストレスを和らげ感情を安定させる等副交感神経に働きかけます。また、もうひとつポイントとなるホルモンが副交感神経から放出される「アセチルコリン」です。

アセチルコリンも心拍を安定させ血圧を下げたり、睡眠の質を良くする効果があります。睡眠に悩まれている方は、こうしたセロトニンやアセチルコリンの放出を助ける音楽を選択し定期的に聴く習慣を持つことで、交感神経から副交感神経への切り替えをスムーズにできるようになり、それにより安眠への導入が促され、結果として朝の目覚めも快適になることでしょう。

◆偉大な作曲家バッハが「安眠のための曲」をつくっていた

副交感神経に働きかける曲の特徴は、ピアノや弦の伸びやかな音色が美しい、主に長調で穏やかな曲、温かみを感じさせるもの、曲調が安定し、落ち着いているものと言って良いかと思います。

中でも「安眠」をテーマに選ぶとすれば、ボーカルのつかないもの、名曲の中でも印象的すぎないものが良いことでしょう。言葉や曲の抑揚に気を取られてしまうと交感神経がまた優位になってしまうことになり兼ねません。

この点においてもクラシック音楽には「安眠」に効果のある名曲がずらりと並びますが、中から個人的に1つ挙げるとすれば、J.S.バッハの「ゴルトベルク変奏曲」がお勧めです。

この曲は、バッハによって音楽の手ほどきを受けたヨハン・ゴットリーブ・ゴルトベルクが不眠症に悩むカイザーリンク伯爵のために演奏したという逸話が残っており、曲のタイトルもそれに由来します。

まさに眠りについてのエピソードある名曲ですので、そのまま眠りに落ちてもいいような環境を整えて、温かいブランケットに包まれながらこの曲を一度聴いてみて頂きたいと思います。

眠るために音楽を活用する場合は、ボリュームなどにも気を付けてみてください。音楽以外の音をできるだけ遮断するのはもちろんですが、音楽そのものの音もボリュームを出来るだけ絞って、耳でかろうじて聴き取れるくらいの音、呼吸に近いくらいの音で聴いてみること。そして、目を瞑りその音に少しずつ身体を委ねてみること。すると、気づかぬうちにいつしかうとうとと深い眠りに落ちていることと思います。

音楽は、乱れた体内リズムをあるべき状態に戻してくれます。

心と体のオン・オフを切り替えるスイッチとして、ぜひこうした場面でも有効に活用していただきたいと思います。