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COLUMN

コラム「音楽は名医」
10.「快」に満ちあふれたモーツァルトで生き生きとアンチエイジング

10.「快」に満ちあふれたモーツァルトで
生き生きとアンチエイジング

思考力や記憶力、運動能力などにかつての要領や勢いを感じられない。やる気が出ず、前向きな気持ちになれない。新しいことに挑戦するのがもはや億劫で、未知に対する意欲を持てない・・・

深刻な病気である懸念が思い当たらない場合、こうしたことは誰にでも起こりうる老化のサインであり、早急に老化対策を講じる必要があります。

小さなサインをやり過ごし、それらが許される身近なコミュニティで過ごす「楽」を選択したその日から、老化はより一層加速していきます。

脳や骨、筋肉はもちろん、皮膚は緩み、萎み、髪や爪からは潤いが抜け、瞳に力を宿すことができず、背中からはオーラが少しずつ失われていくことでしょう。

戦後の高度成長期を生きた世代ではこうした症状を見るのは40代も半ばを過ぎてからであることが一般的でしたが、最近は20代の若者にもこうした症状が見受けられ、私のクリニックにも驚くほど若い世代がすっかり疲れた皮膚をどうにかしたいと、治療にやってくることが珍しくありません。

こうした症状を改善するために音楽の力を借りるとするならば、実に優れた名医がひとりいます。その人こそが、ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト。

僕が言うまでもなく、ハイドン、ベートーヴェンと並ぶウィーン古典派三大巨匠の一人です。以前のコラムで少しお話ししていますが、ここで今一度おさらいしながら詳しくお話ししていきましょう。

ロココ様式と呼ばれる装飾音の多い軽快で優美な曲、長調を主とした、明るく、華やかで転調も鮮やかな曲を特徴とするモーツァルトの楽曲は、新脳に良い刺激を送る要素に事欠きません。

新脳は知覚、言語、随意運動、思考、推理、記憶など、脳の高次機能を司りますが、音に関しても複雑で知的、幅広い周波数のある豊かで重厚感あるメロディとハーモニーを好み、またそれによって反応を起こします。

新脳を満たすこと、喜ばせることでアンチエイジングを叶えたい、という観点で見ると、モーツァルトの楽曲は本当に優れています。ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトという人は私がここで言うまでもなく神童であり天才でありますが、彼の作った楽曲は「快」に満ちあふれています。

もっと楽しく、もっと華やかに、もっと明るく・・・贅を凝らした優雅な宮殿で王侯貴族が舞い踊る姿や、美しい白鳥が大きな翼を広げ飛翔する姿、丹念に育てられたバラや、美しい貴金属、緻密な絵画、精巧な銀細工・・・といったものがモーツァルトの曲にはよく似合います。

なくても日々生きていくことには困らないもの、けれどあれば生活の彩を一変してしまうもの。新脳が求めるのはそういった快楽であるからです。

アンチエイジングに効くこの一曲、という視点で数多いモーツァルトの名曲の中からいくつか選ぶとするならば、まず私は名匠ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団演奏による歌劇《フィガロの結婚》序曲を挙げたいと思います。

言わずと知れたモーツァルト三大オペラのひとつを代表する楽曲ですが、冒頭から目が一気に覚めるようなこの楽曲で、頭のモードが早速切り替わることと思います。ドラマティックな脳への刺激が次々に起こるのをぜひ感じてみてください。

もう一曲は、サー・ゲオルグ・ショルティ指揮による歌劇《魔笛》序曲

ショルティによってその機動力が最大限に引き出されたオーケストラによる魔笛は、いつ聴いても鳥肌が立ちます。

そして、最後にモーツァルト晩年の傑作。妻コンスタンツェの療養を世話した合唱指揮者アントン・シュトルのために作曲した《アヴェ・ヴェルム・コルプス》

ラファエル・クーベリック指揮 レーゲンスブルク大聖堂聖歌隊 バイエルン放送交響楽団によるものです。ここまでの曲とは一転し、静謐で厳かな一曲は、高揚した新脳に静寂を与え、与えられた刺激について脳が整理する時間を与えてくれることでしょう。

アンチエイジングとは、死ぬその日まで意志の力で続ける長い長いマラソンです。

こうした楽曲を聴いた後に、ちょっと体を動かしてみようか、最近会っていない友人に連絡してみよう、久しぶりに遠出してみるのもいいかもしれない、家の掃除をしてみようか・・・。

腰を上げて身体や心を動かしたくなる、そんな小さな変化があれば私もとても嬉しく思います。

毎日の小さくささやかな「前を向く気持ち」がいつしか大きな貯金となっていることを、いつかご実感いただけることでしょう。