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COLUMN

コラム「音楽は名医」
1. 音楽は脳に働きかける! 不調改善と健康促進の効果について

1. 音楽は脳に働きかける!
不調改善と健康促進の効果について

「弦の響きには幾何学があり、天空の配置には音楽がある」-有名なピタゴラスの言葉です。

僕自身、医学を始め、数学、物理、化学、工学、薬学・・・といった主に理系の学問に傾倒していますが、理系の学問を得意とする人々は数式を解く面白さと同じような好奇心でもってクラシック音楽に魅了されている人も多い気がします。

音楽は人類共通のものでありあらゆる文化に様々な形で存在しますが、これはヒトに限ったことであり、ヒト以外の動物には音楽がほぼ存在しません。

人類史の中で最初は天災や外敵から身を守るために音楽は生まれたと考えられています。

自らの声や、手を使い打楽器の先祖となるもので音を組み合わせる中でまずリズムが生まれ、それがいつしかメロディーとなり、ハーモニーを楽しむようになった、音楽が祈りを生み、舞を生み、祭りを生み出した・・・人間であれば生まれたばかりの赤ちゃんでも音楽を認識しますので、ヒトとして生まれた以上、我々の想像を遥かに超えたDNAレベルでヒトと音楽は繋がり、その歴史の中で常に身近にある存在であったことは間違いありません。

今回そんな音楽に、サイエンスの発展があったからこそ可視化できるようになった医学的な意味や効果について誰もがわかるような解説をここでつけてみたいと思います。

今まであまりに身近にあるからこそあえて注目をすることもなかったその音楽が持つ「力」に今一度注目し、敬意を払い、意思を持って日常生活に取り入れる、そんなきっかけのひとつに僕のコラムがなればいいな、とも考えています。


音の持つ力が、近年科学的に証明されるようになってきました。視覚・聴覚・触覚・嗅覚・味覚・・・という五感の中で聴覚の刺激は脳の中枢に直接働きかけます。例えば黒板を引っかくような嫌な音を耳がとらえることによって及ぼされる不快感は絶大なものです。

ちなみに視覚では、いったん脳で画像が整理され好き嫌いを判断しますので、見たくなければ目を閉じることができます。

しかし、音は違います。

これは古来より音を耳で捉えることがそれだけ危険を察知するのに重要だったからだと考えられています。

音楽はこの「音」の集大成となります。そのため音楽が脳に与える影響というのはとても大きいのです。

人間の脳は、主に新脳と旧脳とに分かれます。考えたり言葉を話したりするときに使われる新脳は、理論と倫理を組み立て理解し整理することに長けており、人間的営みや社会生活を送る上で必要不可欠です。これに対し旧脳は食欲や呼吸、感情など本能をコントロールしていて、生命の維持に欠かせない役割を担っています。

音楽の素晴らしい点は、この新脳・旧脳どちらにも働きかけることが出来ることです。新脳と旧脳どちらもが良いバランスを保ち、それぞれの中にある神経伝達物質がより機能的に放出されたり活性化されたりすれば、ヒトはより健康的に、より生き生きと、より幸せに毎日を送ることが出来ます。心と身体の充実を図ることができるのです。


音楽を聴いているとき、脳の中でいったい何が起きているのかご存知ですか?

様々な研究者や医療関係者が音楽の持つ力や可能性について興味を持ちこれまで研究を行ってきましたが、サイエンスの世界ではこの10年ほどの間にファンクショナルMRI(fMRI:磁気共鳴機能画像法)という技術が確立・進歩して、音楽がどのように脳に作用しているのかをより科学的に解明できるようになりました。

fMRIは、磁石の力で脳を調べ、ある特定の刺激が脳に与えられたとき果たして脳の中の一体どの部分がより活発に働いているのか、それを画像化することができる技術・機器となります。これにより音楽の力もまさに“目に見える”ようになったわけです。

今後さらに詳しい研究が進めば、人間にとって音楽がいかに名医となり良薬になり得るのかがより科学的に、そして医学的にも明らかにされていくことと思います。


僕自身、幼少の頃よりもう50年近くクラシック音楽に慣れ親しんだ暮らしを送っていますが、様々な音楽ジャンルの中でもクラシックというジャンルは少々特別なものであると思っています。

リズム・メロディ・ハーモニーが三位一体となり、オーケストラによって演奏されることを前提とした楽譜により幅広い周波数の音が含まれ、旋律も複雑かつ豊かです。

一曲を奏でるのに必要とする時間数も圧倒的に長く、ストーリー性溢れる構成力が下地にあり、またひとつひとつの楽章に前後を結ぶ理論展開が置かれ、一音でも順序が逆になるとその理論が崩れてしまうタイプの音楽でもあります。

楽曲の中に様々なアイディアとモチーフが隠されていて、世代を超えて解釈が楽しまれています。

慣れ親しむまである程度の時間と経験は要しますが、そもそも脳という臓器は複雑なものを好み、楽なものや安易なものには飽きやすいという性質を持っています。

つまり、クラシックのような難解なものを脳は喜び、好むのです。

脳に刺激を送るために「音の集大成」である音楽を使うのであれば、その最高峰に位置するクラシックほどぴったりなものはないでしょう。

ワーグナーやラフマニノフ、ブラームス、ブルックナー、ヴェルディ・・・など、振り返れば勉強や研究を始め人生に訪れた様々なシーンにおいて、こうしたクラシックの名曲がとても役立った経験を僕自身豊富に持っています。

悩みを抱えていた思春期には、チャイコフスキーの交響曲第5番を何度も聴き、心に希望を持つことができました。情緒の安定や安眠、創作活動において今でも欠かすことができません。

幼少から思春期にかけては、なぜクラシックにこれほど自分は助けられているのか深く考えたこともなかったのですが、医師となってから学んだ専門の分野で音楽が痛みを軽減する理論を知るに至り、なるほどと膝を打った経験があります。

今は多くの方が生きづらさを感じる時代であると言われます。また、病院に行っても原因が特定できない不調を抱えている方も多いと聞きますが、そうした方々にもぜひこうした身近にある音楽を有効に活用していただきたいと思います。

特に日本で生まれ育った方であれば、小学校や中学校で行われる運動会などを始め、TVのCMやドラマ、バラエティ番組など身近な場所でクラシックの名曲は想像以上に使われていますから、クラシックをなんとなく苦手だと思い込まれている方でも実際聴いたことのある曲、口ずさむことのできる楽曲は意外と多いものです。