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BLOG 藤本幸弘オフィシャルブログ

若き天才 ホロヴィッツに挑む

先週の日曜日、サントリーホールで行われたコンサートに行ってきました。ウラディーミル・フェドセーエフ指揮 チャイコフスキー記念モスクワ放送交響楽団 が来日したのです。定期購読している ”大人のための知的好奇心マガジン” ACT4で、その情報を年明けに知り、中の一日に僕が大好きな曲目ばかりの日があったので、ずっとこの日が来るのを楽しみにしていました。

この演奏会の曲目は、

ラフマニノフ :ピアノ協奏曲第3番 ニ短調

チャイコフスキー :弦楽セレナーデ ハ長調 op.48

祝典序曲『1812年』 op.49

こうした曲目を一度に聴けるコンサート自体が珍しい。

僕はこのブログでも何度も書いてますが、大のクラシック・ファンで、コンサートにはけっこう行っているほうだと思います。何人もの名演奏家、名指揮者を実際に見て感動を積み重ねてきました。でもその中でも今回はすごかった・・・!! こんなコンサートは聴いたことがない!

特にラフマニノフの3番はあまりにショッキングでした。数あるクラシックの名曲の中でも超難度な演奏を要求される3番を、あのホロビッツと同じ速度であっさりと演奏出来る人間がいたとは…。彼が鍵盤に手を置いた瞬間から瞳孔が開き、席から身を乗り出し、鳥肌が粟のようにたち、茫然自失として、終わって一瞬自分が聴いたものが一体なんだったのか理解できなかった・・・。帰宅してこの体験をブログに書こうと思っても、まともな文章にしばらくできなかったのです。こんなことはじめての経験でした。

ピアノを演奏したのは、今年31歳のデニス・マツーエフ。1975年ロシア生まれで、第11回チャイコフスキー国際コンクールで優勝したキャリアを持っています。まさに超のつく技巧派です。うまい、本当に天才的にうまいのですが、技巧に走りすぎて他との協調を図れない。名門モスクワ放送交響楽団が完全に置いていかれていましたからね。あれは、協奏曲ではないですよ。個人プレイに走りすぎている。「俺はここまで弾けるんだ! これについてこれるか?」と彼の自信が客席まで響いてくるようでした。

曲間の休憩時間中に販売していたロシア版のCDの題名を見て、また驚きました。アルバムのタイトルが”Tribute to Horowitz (ホロビッツに捧ぐ)”ですよ。彼にとっては母国の大先輩、しかも世界のクラシックファンで名前を知らない人はいない、まさにピアノの神様のようなホロビッツに対するトリビュートを、この31歳の若者が出すとは…。

彼のCDを二枚買って家で聴いてみると、確かのその演奏は、まさにホロヴィッツ、リヒテルらロシア・ピアニズムの伝統を受け継ぐものした。「tribute」を出したくなる気持ちもわかるような気がしました。

何十年に一度現れるかどうかわからない稀代の、そして、孤高の天才です。でも今の彼にオーケストラはいらない。これでは、オケもたまらないでしょう。

ピアノの技巧は完成している彼ですから、その彼がいつか社会的にも、あるいはプライベートでも幾多の悩みや様々な壁を乗り越えて、人としての円熟味を増し、そして将来、そんな彼を理解し、受け入れ、彼の演奏をうまく引き出しながらも、協奏曲としての深みを与えられる交響楽団と指揮者があれば、それは本当の意味で史上最高のコンサートが実現するかもしれませんね。

そのときには、演奏する場所がどこであっても、何を置いてでも駆けつけたい。そう心から願っています。


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