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BLOG 藤本幸弘オフィシャルブログ

カテゴリー:医療

第24回日本抗加齢医学会ランチョンセミナーご報告

第24回日本抗加齢医学会ランチョンセミナーご報告

大阪国際会議場にて開催された第24回日本抗加齢医学会において、ランチョンセミナーの講演を無事盛況のうちに終えることができました。

学会中日の正午、理事陣が並列した10枠のランチョンの座長を務める重要な枠にて、最大規模のホールで500席分のお弁当が事前に完売。さらに「お弁当がなくても聴講したい」と足を運んでくださった約100名の方々を含め、合計600名もの皆様にご参加いただきました。心より感謝申し上げます。

今回の講演では、過去から今年に至るまでに発表された最新のNMN関連論文を網羅的に再検討しつつ、僕の専門領域であるレーザー治療との共通点にも焦点を当てました。近赤外線や低出力レーザー照射によってミトコンドリア第IV電子伝達複合体、すなわちチトクロムCオキシダーゼが活性化され、NAD⁺の酸化還元サイクルが促進される現象。このカスケードは、NMNをはじめとしたNAD⁺ブースターの作用機序と共鳴する、生体エネルギー代謝の核心とも言える流れです。

また、NMNと毛髪に関する研究でこの1年間ご一緒してきた伊藤麻衣子さんも、本学会にて医学会初登壇を果たしました。ちょうど本プロジェクトの成果の一部を英文論文として投稿したばかりですが、その内容を背景に、堂々たる講演を披露してくださいました。

セッションの最後には、今年25周年を迎えた抗加齢医学会のこれまでの軌跡を振り返ると同時に、次の25年に向けたビジョンと提言もお話しさせていただきました。

この研究と発表にあたり、座長の葦沢龍人先生をはじめ、共に歩んできた東京大学理学部、早稲田大学人間科学部、三菱商事ライフサイエンスの研究者の皆様に、あらためて感謝を申し上げます。


第41回日本DDS学会に寄せて── “進撃のDDS”が開く未来の扉

第41回日本DDS学会に寄せて──

“進撃のDDS”が開く未来の扉

今年もまた、初夏の学会シーズンがやってきました。週末は大阪での抗加齢医学会ですが、週明け。2025年6月17日・18日、千葉・幕張メッセで開催される第41回日本DDS学会は、例年以上に熱いテーマを掲げています。

DDS(ドラッグデリバリーシステム)を端的に言うと──

「薬を、必要な場所に、必要な量だけ、タイミングよく届ける技術」です。

もう少し噛み砕くなら、

• ただ薬を飲む・注射するだけではなく、
• 病巣だけに効かせたり、副作用を減らしたり、
• 体の“どこに”“どのくらい”“いつ”届くかを設計・制御する方法

それがDDSの本質です。

現代のDDSは、ナノ粒子、マイクロカプセル、脂質ナノ粒子(LNP)、抗体結合、温度やpHで薬が放出される機構など、非常に多彩ですが、僕はフラクショナルレーザーを利用した経皮のドラッグデリバリーを研究して薬学博士号をもらいました。

今回の学会の標語は

「進撃のDDS:新しいフロンティアを切り拓け」

少し驚きました。

いつもは「制御放出の最適化」とか「高分子薬剤の進展」といった堅実なタイトルが並ぶ中で、今回はあえて“進撃”という言葉が選ばれました。おそらくそれだけ、今のDDS分野が勢いを増している証拠なのでしょう。

魔法の弾丸、次なる一手

今回の学会では、抗体医薬の進化が大きな話題です。

• 抗体薬物複合体(ADC)
• 二重特異性抗体
• 光免疫療法
• 放射免疫療法

これらの技術が、がんや難治性疾患に対して「ここぞ」という場所に薬を届けたり、免疫細胞を呼び寄せたりする。
昔、ポール・エールリッヒが語った“魔法の弾丸”は、いまや本当に臨床の現場に届こうとしています。
さらに再生医療や核酸医薬(mRNA、siRNAなど)といった新しい分野も、DDS技術との出会いでいっそう力を増しています。
最近ではサメ抗体やPROTAC、AIによる薬剤設計といったキーワードも登場し、「届ける技術」が「創る技術」とつながってきている印象です。

「異分野融合」が、未来を拓くカギ

DDS学会の魅力は、何といっても“医・薬・工”の境界がないことです。ポリマーの専門家の隣に、動物モデルの研究者が座り、その先に臨床医がいる。立場も分野も違うけれど、みんな「どうやったら薬がちゃんと効くか」を真剣に考えている。この空気感が、私はとても好きです。
学会では、質量分析や分子イメージングといった評価系の進歩も紹介されますし、ヒト化マウスや動物代替法など、より倫理的かつ精密な検証法の登場も印象的です。

最後に:未来の治療を“運ぶ”人たちへ

私たちが今の医療に期待しているのは、単に「効く薬」だけではなく、
「必要な場所に、必要なだけ、やさしく届ける」ことなのではないでしょうか。
それを支えているのが、DDS研究の人たちです。
薬を包み、届け、放出させる──そのすべての過程に工夫と知恵が詰まっている。
幕張で交わされる対話や、ポスター前での議論のひとつひとつが、
患者さんに届く未来の治療法を、今まさにかたちづくっているのです。

第41回日本DDS学会、“進撃のDDS”がどんな景色を見せてくれるのか──

その一歩を、僕も楽しみにしています。


日本抗加齢医学会 ランチョンセミナー

「可視化の傲慢」から「不可視の叡智」へ

──アンチエイジング医療の未来を問う

このところ毎日、来週の抗加齢医学会のランチョンセミナーに向けての論理展開を考えています。議題はNMNの話ですが、最新の研究結果を並べるだけでは、聴衆は飽きますし、時間も持て余してしまいます。そして講演には笑いも必要ですよね!

まだまだ変えると思いますが、導入は以下のような論理展開で行こうと思います。

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1980年代から90年代、私たち医師は「すべてが見えるようになった」と思い込んでいた。
MRIで脳の構造を、エコーで内臓を、血液検査で分子を「可視化」できるようになった時代。解剖学・生理学・遺伝子学・ホルモン・神経伝達物質──あらゆるものが測定できるようになり、医療は万能の道具を手に入れたかのようだった。
脾臓が破裂すれば「取ってしまえばいい」。虫垂炎は「不要だから切除」。がんも「大きく取り去れば良い」とされた。サプリメントは栄養素だけを抽出し、健康を語る“疑似薬”として店頭に並んだ。
だが、21世紀に入ってその確信は崩れはじめる。
脳の血流可視化(fMRI)により、感情や意欲が医学的研究対象となり、DNAに加えmRNAやマイクロRNAといったエピジェネティクスも解析対象に。
脂肪細胞はホルモン分泌臓器として再定義され、筋肉細胞との“クロストーク”を行う。
そして腸内細菌は、消化機能だけでなく性格や気分、社会的行動にまで影響を与える可能性があるとされる。

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80年代から90年代の「見えるもの中心」の医学から、21世紀の「目に見えないネットワーク」や「複雑系」としての人体理解へのパラダイムシフトが起こったといえるのだ。

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アンチエイジング医療の「限界」と「展開」

アンチエイジング医療においても、初期は“測れるもの”を対象にしてきた。
・テロメア長
・血中のNAD+濃度
・ホルモン補充療法
・酸化ストレスや炎症マーカー

アンチエイジング医学は当初、「若さ=数値」と信じていた。これらを改善すれば“老い”は止まると。
これらは重要な指標ではあるが、必ずしも「健康寿命の本質」を語ってはいなかった。なぜなら老化は、時間による物質の劣化ではなく、「情報の不協和」だからだ。
内臓、筋肉、神経、感情、記憶、そして腸内細菌まで──それぞれが「音楽隊」のように協調し、交響する状態が“若さ”の正体なのだとすれば、その調和が崩れたとき、老化が始まるのではないか。
しかし、老化とは時間の経過ではなく、情報の調和崩壊であるという見方が強くなってきた。
肉体と精神、筋肉と神経、腸内細菌と感情──それらが音楽のように交響し、調和することこそが“若さ”の本質ではないか。数値を改善しても、それが奏でる“ハーモニー”が壊れていれば、老化は止まらない。

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展開の方向性──「調和の医療」へ

1. 時間生物学(Chronomedicine)
サーカディアンリズムの回復を図ることで、睡眠、ホルモン分泌、代謝、情動を最適化。

2. マイクロバイオーム医療
腸内細菌と免疫・精神・皮膚の相関に注目。プロバイオティクスやプレバイオティクスが「性格」を変える可能性も研究中。

3. レーザー医療と情報伝達の再設計
高出力だけでなく、低出力レーザー(LLLT)は細胞のATP産生促進、炎症抑制、神経再生を誘導する。
特に近赤外レーザーは血流改善と細胞レベルでのミトコンドリア活性化が示唆されており、これは“沈黙の情報ネットワーク”を再構築する医療といえる。

4. NMNとNAD+代謝の再生
老化に伴い減少するNAD+を補うことで、DNA修復酵素(PARP)やサーチュイン(SIRT1)を活性化。
NMNはミトコンドリア機能の根幹を支え、神経や筋肉、血管におけるエネルギー代謝の正常化に寄与する。
また最新研究では、NMNが自律神経を安定化し、睡眠やストレス耐性にまで波及する可能性も報告されている。

5. デジタルフェノタイピング
スマートフォンやウェアラブルで得られる行動・感情データを解析し、リアルタイムで“老化の兆候”を捉える試み。
総括──「老い」とは、静かに起こる情報の誤配線である

アンチエイジングとは、若さを“取り戻す”行為ではない。身体のあらゆる細胞・器官・微生物が交響する“調和”を再設計する試みである。


【転勤で日本へ──バングラデシュの皮膚科医からの相談】

【転勤で日本へ──バングラデシュの皮膚科医からの相談】

English translation is provided after the Japanese text.

バンコックで一緒に招待講演を行ったインドのドクターから、バングラデシュで皮膚科医として活躍している友人ドクターのアドバイスに乗ってもらえないかと相談がきた。

「私は皮膚科医で、バングラデシュに自分のクリニックとトレーニングアカデミーを持っています。ですが、夫が日本のバングラデシュ大使館に異動になり、私も一緒に日本に引っ越す予定です。何もせずに過ごすのではなく、できれば日本でも何か活動したいと思っています。働くことは可能でしょうか?どう進めればよいか、アドバイスをいただけたらありがたいです。」

素晴らしいキャリアを持つドクターの「立ち止まりたくない」という姿勢に心から共感した。

しかし、日本の医療制度は、やはり壁が高いのも事実である。

■ 日本で医師として働くには

日本では、医師免許(医師国家試験)を持っていないと、医師としての臨床業務に従事することはできない。
その国家試験はすべて日本語で行われるため、日常会話レベルをはるかに超える高度な日本語運用能力(JLPT N1相当)が求められる。
つまり、「すぐに皮膚科医として働く」という道は、現実的にはかなり厳しいというのが正直なところである。

■ では、何ができるのか?

私はこう返事をした。
「臨床医として働くのは難しいかもしれませんが、学生や研究者としてのキャリアには可能性があると思います。たとえば、日本の大学でMBAやPhDなどの取得を目指すというのも一つの選択肢です。」
アカデミックな活動や、医療経営、国際美容医療の研究など、多様な道が開けている。
特に、すでにクリニック経営や教育経験のある方なら、起業支援や医療系ビジネススクールとの親和性も高い。

■ 第一歩としての履歴書

「いずれにしても、まずは履歴書(CV)が必要になります。もし送っていただけたら、関心を持ちそうな医療機関や教育機関をご紹介できると思います。」
語学力や資格の制限がある一方で、「人柄」や「経験」は国境を越える武器になる。動き出すための最初の一歩、それは思いの詰まった一枚の履歴書かもしれない。

■ 医学は国境を越えるか?

日本に来られる多くの外国人医師が直面するのは、「知識や経験はあるのに、制度や言語の壁で活かせない」というジレンマだ。
だが、それでもできることはある。
教育、研究、国際協力、さらには異文化医療の架け橋となるような活動──

医師という肩書きを越えて、医療の本質に向き合う新たな形が、ここ日本でもきっと見つかるはずだ。

When a Dermatologist Moves to Japan — A Crossroads of Medicine and Opportunity
The message arrived quietly, yet with a sense of purpose.
“I’m a dermatologist in Bangladesh. I run my own clinic and training academy. But my husband has been assigned to the Bangladesh Embassy in Japan, so I will be relocating with him. I don’t want to sit idle—do you think I could work there? I’d be really grateful if you could guide me.”
A clear voice from a colleague who has already built a meaningful medical and educational presence in her country, and who is now seeking not rest, but renewal in a foreign land.
Naturally, I was impressed. But I also knew the reality in Japan is layered with bureaucratic and linguistic complexities.

Practicing Medicine in Japan: A Tall Mountain to Climb
In Japan, you must hold a Japanese national medical license to practice medicine—no exceptions.
To obtain one, you must pass the National Medical Licensing Exam (in Japanese), which requires not only medical knowledge but also fluency at a near-native level (JLPT N1 or equivalent).
That means, realistically, starting work as a dermatologist in Japan is not something that can be done immediately or easily.

But Then—What Can Be Done?
Here’s what I suggested in my reply:
“While clinical practice may not be feasible at this stage, I do think there’s great potential in academic and research-based activities. You might consider pursuing an MBA or PhD program in Japan—especially given your experience in running a clinic and training academy.”
Japan’s graduate programs—especially in medical business, health policy, or aesthetics science—are increasingly international in scope. And many offer English-language tracks, or can be navigated with support.
Such credentials could open doors to teaching, consulting, or working with international skincare brands and device companies.

The First Step: A CV That Speaks
“In any case, the first thing I would suggest is putting together a solid resume. If you can send it to me, I’d be happy to introduce you to people or organizations who might be interested in your background.”
Your experience, initiative, and character—these are assets that travel across borders more easily than licenses.
Sometimes, one well-crafted page is all it takes to begin a new journey.

Medicine Beyond Borders
Foreign-trained doctors in Japan often find themselves in a frustrating paradox—rich in knowledge, yet limited by regulation.
And yet, there are still many meaningful paths forward:
• Teaching
• Research
• International consulting
• Acting as a cultural and clinical bridge between systems
In Japan, where the population is aging and the aesthetic medicine field is growing, new perspectives are welcome—especially from professionals who already understand both science and people.


大分佐伯より NMN酵母発酵の最前線へ

大分佐伯より──NMN酵母発酵の最前線へ

本日は、大分県佐伯市にある三菱商事ライフサイエンス社のNMN生産拠点を訪問。

日本抗加齢医学会のランチョンセミナー登壇を控え、最新の知見をアップデートすべく、巨大酵母発酵工場と併設の研究所を見学、研究スタッフとのディスカッション。

さらにこちらの研究者と東大理学部の濡木研とZoomで繋ぎ、共同研究の打ち合わせに臨みました。

NMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)には、生体内で活性を持つβ型と、活性を持たないα型の2種が存在します。

実は、化学合成法ではどうしてもα型が混在しやすくなるのに対し、酵母発酵法では、ほぼ100%がβ型として合成されるのです。

まさに「生命に則った」製造技術であり、日本のバイオ発酵技術の精華を体感する一日となりました。

敷地には高さ4階相当の巨大な発酵槽が幾つも立ち並び、そのスケール感は圧巻。

施設内の撮影は制限されていたため外部公開はできませんが、Google Mapで上空から見れば、その広大さは一目瞭然です。

東京ドーム12個分という敷地面積が、発酵タンク群と研究施設を包み込んでいます。

興味深かったのは、この場所がかつて旧日本海軍の佐伯航空隊基地であり、ゼロ戦の飛行場が存在していたという歴史的背景。

瀬戸内海の奥、呉軍港から太平洋へ向かう艦艇の航路を守るため、この豊後水道上空を哨戒する航空拠点が必要とされていたのです。

かつて空を守った地が、今は“細胞の若さ”を支える発酵技術の拠点となっている──時間軸のスケールに思いを馳せる一日となりました。


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