この学会に参加して最も良かったのは、人類の負の遺産であるアウシュビッツを訪れることが出来たことだと思っています。
殺人工場といわれたこの強制収容所は、現在ポーランドの領地内にあります。
あるものは即座に殺され、あるものは過酷な労働に従事させられた後に殺されました。
ここで殺された人々の数は28の民族、150万人以上にも上ると言われています。
死者から切り取られた髪の毛から作られた絨毯や、おびただしい数のメガネや鞄などが展示物として山のように積まれており、その圧倒的な存在感は、涙が自然とあふれ出て、目を覆うものばかりでした。
人類として一度は見ておかなければならない歴史の事実だと思います。
2度と行きたくはないですが、、、、。
アウシュビッツの門には、働けば自由になる(ARBEIT MACHT FREI)と書いてありました。この門を収容者たちがどんな気持ちでくぐったのでしょうか?
医学の歴史は、非常に戦争と密着していると言われています。
事実、戦時中が最も医学が進んだ時期なのです。
大学時代に、森村誠一の悪魔の飽食という本を読んで、陸軍中将の軍医であった石井四郎の率いた関東軍731部隊を知りました。
中国人を丸太と呼んで、生命の極限まで生体解剖をしたのです。
血液の代わりに水を入れたらどうなるのかとか、肺を半分切除したらどのくらい生きるかとか。
まさにマッドサイエンティストのなせる業です。
戦前まではドイツが世界で最も医学の進歩した国だったのですが、戦後になり、731部隊の資料を得た米国が世界でもっとも医学が進化したという噂があります。
信じたくないですが。
確か、遠藤周作の『海と毒薬』という本で、これにヒントを得たと思われる話が取り上げられています。
腕は確かだが、無愛想で一風変った中年の町医者の主人公である、勝呂。
彼には、大学病院の研究生時代、外国人捕虜の生体解剖実験に関わったという忌まわしい過去がありました。
病院内での権力闘争と戦争を口実に、生きたままの人間を解剖したのです。
この前代未聞の事件を起こした人々の苦悩を淡々と綴った海と毒薬は、人間の罪責意識を深く、鮮烈に問いかけるまさに名作でした。
実はこの本に続編があったのを皆さんはご存知ですか?
『悲しみの歌』という小説です。
戦時中、生体解剖に関わり戦犯となった過去を持つ開業医が、若い新聞記者に正義という名のもとに追い詰められていく。”普通”の人間達の悲しみ、そして弱さが描かれた作品でした。
小説中に登場するお人好し外国人、ガストンさんの”ピュア”な優しさは涙を流さずにはいられません。
お読みになったことのない方にはお勧めの書です。
また、ユダヤを扱った映画はいくつもありますが、私が見た中で、シンドラーのリストと、ソフィーの選択は名作だと思います。
思い出すと感情が高ぶってしまい、ものをかけなくなるので、次の機会にまわしたいと思います。
ここはアウシュビッツの終着駅です。
二つに線路が分かれていますが、どちらの終着駅も死しかありませんでした。
一人の医師として、アウシュビッツで受けたおそらく死者達が感じたであろう、忸怩たる思いと、深い諦観を肌で感じました。
この感情を生涯大切にしようと思いました。