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BLOG 藤本幸弘オフィシャルブログ

カテゴリー:ドラッグデリバリー

香港コスモプロフ

今日の香港は晴天です。

アジア最大の美容化粧品展示会の香港コスモプロフに参加しています。

新しい商材を探すというよりは、とにかく活気が凄い。

 

Today, Hong Kong is enjoying clear skies. I’m attending Cosmoprof Asia, the largest beauty and cosmetics trade show in Asia. Rather than looking for new products, what really stands out is the incredible energy of the event.


【新国際学会周遊記──メソセラピー、水光注射は“本当に効いている”のか?】

【新国際学会周遊記──メソセラピー、水光注射は“本当に効いている”のか?】

美容医療における「メソセラピー」や「水光注射」。
肌再生や美白、小ジワ改善などを謳い、現在でも人気の高い施術ですが──

実際には、どこに注入された薬剤が分布し、どのように作用しているのか?
疑問じゃないですか?

僕も経皮ドラッグデリバリーで薬学博士を取った専門家です。

本稿ではこの問いに、分子薬理学と組織解剖学の視点から迫ってみたいと思います。

◉「効いていないのでは?」という疑問

まず、この手の注射療法に批判的な意見としてしばしば挙げられるのが、

1注入した薬剤が細胞内に入っていないのでは?
2せいぜい間質液(サードスペース)にとどまっているだけではないか?
3仮に細胞内に取り込まれたとしても、標的レセプターに届いていないのでは?

──という三段論法です。

では、実際にはどうなのでしょうか?

◉【第一段階】細胞内に本当に届くのか?

水光注射は、一般に真皮浅層〜中層に微量の薬剤を多点注入する手法です。
しかし、細胞膜は脂質二重層であり、水溶性分子や大きな分子(例:ヒアルロン酸やペプチド)は単純拡散では細胞内へ入れません。
したがって、以下のいずれかが必要になります:

1. エンドサイトーシス(細胞貪食)
2. トランスポーターによる能動輸送
3. 一部ナノカプセル化(リポソーム等)による導入

多くの製剤はここまで設計されていないため、大部分は間質液中にとどまると考えられます。

◉【第二段階】サードスペースの問題

薬剤がサードスペース(=細胞外液の一部であり、血管外・細胞外の空間)に存在する場合、以下の作用が期待されます:

• 線維芽細胞の表面に存在する受容体(例:TGF-β受容体、FGF受容体など)に結合
• そこからパラクライン(傍分泌)機構で周囲の細胞に作用

つまり、細胞内には入っていなくとも、細胞表面レセプターに届けば作用可能というのが真皮内投与の利点です。
ただし、逆に言えば、
レセプターの選択性を考慮しない雑多な成分の混合注入は、生理活性を持たないことが多い
──ということでもあります。

◉【第三段階】“入ったとしても”レセプターに届くか?

これは薬理学でいうところの「ターゲティング」の問題です。
薬剤が分布しても、
標的細胞の表面に存在するレセプターに届いて初めて作用が始まる。
しかし多くの水光注射製剤は、分子量が大きく、拡散しにくいため、
濃度勾配を作っても、表皮や脂肪層への拡散が乏しい
期待する細胞(例えば線維芽細胞)に届いていない可能性
が大いにあるわけです。

◉まとめ:効いている条件とは?

したがって、メソセラピー・水光注射が「本当に効く」ためには以下が必要です:

1. 適切なターゲット分子に作用する薬剤設計(リガンド設計)
2. 適切な層(真皮中層など)への正確な注入
3. 薬剤の安定性と拡散性
4. 標的レセプターの発現が局所に存在すること

これらがそろっていなければ、「やった感」だけが先行し、実際には効果が乏しいというケースも多々あるのが現実です。

◉エビデンス
• Zhang L. et al.: Transdermal delivery of cosmetic ingredients: A review. J Cosmet Dermatol. 2020;19(2):313-321.
• Pavicic T. et al.: Efficacy of a hyaluronic acid-based mesotherapy product: A randomized, controlled study. J Drugs Dermatol. 2011;10(9):990-996.
• Luebberding S. et al.: Influence of injection techniques on dermal filler outcomes. Dermatol Surg. 2015;41 Suppl 1:S102–S112.

必要以上に懐疑的になる必要はないものの、「効くか効かないか」以前に、「どこに何が入って、どんな反応が期待されるか?」という薬理生理学の視点は、美容医療でも欠かせない。
──そう痛感するのです。


第41回日本DDS学会に寄せて── “進撃のDDS”が開く未来の扉

第41回日本DDS学会に寄せて──

“進撃のDDS”が開く未来の扉

今年もまた、初夏の学会シーズンがやってきました。週末は大阪での抗加齢医学会ですが、週明け。2025年6月17日・18日、千葉・幕張メッセで開催される第41回日本DDS学会は、例年以上に熱いテーマを掲げています。

DDS(ドラッグデリバリーシステム)を端的に言うと──

「薬を、必要な場所に、必要な量だけ、タイミングよく届ける技術」です。

もう少し噛み砕くなら、

• ただ薬を飲む・注射するだけではなく、
• 病巣だけに効かせたり、副作用を減らしたり、
• 体の“どこに”“どのくらい”“いつ”届くかを設計・制御する方法

それがDDSの本質です。

現代のDDSは、ナノ粒子、マイクロカプセル、脂質ナノ粒子(LNP)、抗体結合、温度やpHで薬が放出される機構など、非常に多彩ですが、僕はフラクショナルレーザーを利用した経皮のドラッグデリバリーを研究して薬学博士号をもらいました。

今回の学会の標語は

「進撃のDDS:新しいフロンティアを切り拓け」

少し驚きました。

いつもは「制御放出の最適化」とか「高分子薬剤の進展」といった堅実なタイトルが並ぶ中で、今回はあえて“進撃”という言葉が選ばれました。おそらくそれだけ、今のDDS分野が勢いを増している証拠なのでしょう。

魔法の弾丸、次なる一手

今回の学会では、抗体医薬の進化が大きな話題です。

• 抗体薬物複合体(ADC)
• 二重特異性抗体
• 光免疫療法
• 放射免疫療法

これらの技術が、がんや難治性疾患に対して「ここぞ」という場所に薬を届けたり、免疫細胞を呼び寄せたりする。
昔、ポール・エールリッヒが語った“魔法の弾丸”は、いまや本当に臨床の現場に届こうとしています。
さらに再生医療や核酸医薬(mRNA、siRNAなど)といった新しい分野も、DDS技術との出会いでいっそう力を増しています。
最近ではサメ抗体やPROTAC、AIによる薬剤設計といったキーワードも登場し、「届ける技術」が「創る技術」とつながってきている印象です。

「異分野融合」が、未来を拓くカギ

DDS学会の魅力は、何といっても“医・薬・工”の境界がないことです。ポリマーの専門家の隣に、動物モデルの研究者が座り、その先に臨床医がいる。立場も分野も違うけれど、みんな「どうやったら薬がちゃんと効くか」を真剣に考えている。この空気感が、私はとても好きです。
学会では、質量分析や分子イメージングといった評価系の進歩も紹介されますし、ヒト化マウスや動物代替法など、より倫理的かつ精密な検証法の登場も印象的です。

最後に:未来の治療を“運ぶ”人たちへ

私たちが今の医療に期待しているのは、単に「効く薬」だけではなく、
「必要な場所に、必要なだけ、やさしく届ける」ことなのではないでしょうか。
それを支えているのが、DDS研究の人たちです。
薬を包み、届け、放出させる──そのすべての過程に工夫と知恵が詰まっている。
幕張で交わされる対話や、ポスター前での議論のひとつひとつが、
患者さんに届く未来の治療法を、今まさにかたちづくっているのです。

第41回日本DDS学会、“進撃のDDS”がどんな景色を見せてくれるのか──

その一歩を、僕も楽しみにしています。


NAD⁺とは何か?

NAD⁺は「老化のマスタースイッチ」とも呼ばれ、その代謝ネットワークはエネルギー産生・DNA修復・炎症制御など多方面に波及します。

NAD⁺の枯渇が老化を駆動し、その補充が老化を遅らせうるという構造が、今まさに臨床応用の一歩手前まで来ていると言えるでしょう。

https://www.nature.com/articles/s42255-018-0009-4?fbclid=IwY2xjawJcF1NleHRuA2FlbQIxMQABHbSh-kFgT7FefJKvgKiH5qMLrIYgthn6kvHI2CnbhtdMktNXARbSXJS1JQ_aem_XYNEHtZVnz8J1KGN-7uhPw

今回NAD⁺ の前駆体であるNMNについて、6月に大阪で開催される抗加齢医学会でもランチョンセミナーの講演を引き受けており、最新の研究結果をなるべく簡単にまとめたいと思っています。

NAD⁺とは何か?

NAD⁺(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)は、すべての細胞に存在する補酵素であり、以下のような役割を果たします。

エネルギー代謝(ATP合成)に必須
DNA修復、抗酸化、防御機構の調整
サーチュイン(Sirtuins)活性化の鍵

NAD⁺は、加齢に伴い体内濃度が著しく低下することが知られており、老化関連疾患や代謝疾患、神経変性疾患と関連があります。

【NAD⁺の分子量と吸収の問題】

NAD⁺の分子量:約663.4 Da(ダルトン)
→ これは水溶性のヌクレオチドとしては比較的大きなサイズであり、細胞膜の受動拡散では通過できません。
また、NAD⁺には特異的なトランスポーターが限られており、特に小腸での経口吸収に不利とされています。

出典:Bogan KL, Brenner C. “Nicotinamide riboside, a unique vitamin B3, and its role in NAD+ biosynthesis and health.” Annu Rev Nutr. 2008;28:115–130.

【NAD⁺の直接摂取 vs. 前駆体摂取】

直接NAD⁺を摂取する場合:
胃酸や消化酵素によって分解されてしまう可能性が高く、
仮に吸収されたとしても、大部分は肝臓で分解・代謝されてしまう。

前駆体(NMNやNR)を摂取する方が理にかなっている:
小腸や各組織に存在するトランスポーターを介して吸収される。
体内でNAD⁺へと変換されやすい。

出典:Yoshino J, et al. “Nicotinamide mononucleotide, a key NAD+ intermediate, treats the pathophysiology of diet- and age-induced diabetes in mice.” Cell Metab. 2011;14(4):528–536.

【例えるなら】

NAD⁺を直接摂るのは、完成した家具を狭いドアから無理に運び込もうとするようなものです。一方、NMNやNRを摂るのは、パーツに分解された状態で持ち込み、中で組み立てるような形。
NAD⁺の前駆体として注目を浴びているNMNですがこちらのNatureの論文で小腸からのトランスポーターが見つかっています。

1. 小腸からの吸収

2020年の研究で、NMNが経口摂取後すみやかに小腸から吸収されることが確認されました。トランスポーターSlc12a8(Solute Carrier Family 12 Member 8)
NMNの細胞内取り込みに関与する特異的なトランスポーターで、小腸上皮細胞に高発現しています。

出典:Grozio A, et al. “Slc12a8 is a nicotinamide mononucleotide transporter.” Nature Metabolism. 2019;1:47–57.

この発見により、NMNはNR(ニコチンアミドリボシド)に分解されずそのままの形で吸収されうることが分かりました。

2. 血中への移行と全身分布

NMNは小腸から吸収された後、門脈を経て肝臓に運ばれ、その後血流に乗って各組織へと分布します。全身の臓器—特に肝臓、筋肉、脳などでのNAD⁺合成に寄与します。

出典:Mills KF, et al. “Long-term administration of nicotinamide mononucleotide mitigates age-associated physiological decline in mice.” Cell Metabolism. 2016;24(6):795–806.

3. 細胞内でのNAD⁺合成

細胞内に取り込まれたNMNは、NMNアデニリルトランスフェラーゼ(NMNAT)によってNAD⁺に変換されます。これはNAD⁺生合成の主要経路の一つであり、老化防止・ミトコンドリア機能維持に関与します。

 

いずれにせよ。NAD⁺もその前駆物質のNMNも抗加齢のためには英文論文の知識のキャッチアップが必須ですね。


エクソソームや幹細胞上澄液などの点滴

エクソソームや幹細胞上澄液などの点滴は、まだクリニックFでは勧めていません。

これらの成分が仮に体内細胞を若返らせるなら、日々体内に生まれている小さながん細胞をより元気にしてしまうと思う。

有効成分や危険成分の分離解析技術の研究がもう少し進むと治療に応用できるでしょうね。

一定年齢いくと、放置しておいても細胞は癌化するし、そのためにターンオーバーを抑えて老化してゆくのが人間という生物。

若返りと癌化は対極のベクトルなんだと思うんです。

少し考えるればまだ待ちだと、受ける側もわかると思うんですけどね。

やっぱり情報を取捨選択する教養は必要です。

こうなると打つ医師も打たれる患者も自己責任ですよね。


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