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BLOG 藤本幸弘オフィシャルブログ

カテゴリー:ドラッグデリバリー

NAD⁺とは何か?

NAD⁺は「老化のマスタースイッチ」とも呼ばれ、その代謝ネットワークはエネルギー産生・DNA修復・炎症制御など多方面に波及します。

NAD⁺の枯渇が老化を駆動し、その補充が老化を遅らせうるという構造が、今まさに臨床応用の一歩手前まで来ていると言えるでしょう。

https://www.nature.com/articles/s42255-018-0009-4?fbclid=IwY2xjawJcF1NleHRuA2FlbQIxMQABHbSh-kFgT7FefJKvgKiH5qMLrIYgthn6kvHI2CnbhtdMktNXARbSXJS1JQ_aem_XYNEHtZVnz8J1KGN-7uhPw

今回NAD⁺ の前駆体であるNMNについて、6月に大阪で開催される抗加齢医学会でもランチョンセミナーの講演を引き受けており、最新の研究結果をなるべく簡単にまとめたいと思っています。

NAD⁺とは何か?

NAD⁺(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)は、すべての細胞に存在する補酵素であり、以下のような役割を果たします。

エネルギー代謝(ATP合成)に必須
DNA修復、抗酸化、防御機構の調整
サーチュイン(Sirtuins)活性化の鍵

NAD⁺は、加齢に伴い体内濃度が著しく低下することが知られており、老化関連疾患や代謝疾患、神経変性疾患と関連があります。

【NAD⁺の分子量と吸収の問題】

NAD⁺の分子量:約663.4 Da(ダルトン)
→ これは水溶性のヌクレオチドとしては比較的大きなサイズであり、細胞膜の受動拡散では通過できません。
また、NAD⁺には特異的なトランスポーターが限られており、特に小腸での経口吸収に不利とされています。

出典:Bogan KL, Brenner C. “Nicotinamide riboside, a unique vitamin B3, and its role in NAD+ biosynthesis and health.” Annu Rev Nutr. 2008;28:115–130.

【NAD⁺の直接摂取 vs. 前駆体摂取】

直接NAD⁺を摂取する場合:
胃酸や消化酵素によって分解されてしまう可能性が高く、
仮に吸収されたとしても、大部分は肝臓で分解・代謝されてしまう。

前駆体(NMNやNR)を摂取する方が理にかなっている:
小腸や各組織に存在するトランスポーターを介して吸収される。
体内でNAD⁺へと変換されやすい。

出典:Yoshino J, et al. “Nicotinamide mononucleotide, a key NAD+ intermediate, treats the pathophysiology of diet- and age-induced diabetes in mice.” Cell Metab. 2011;14(4):528–536.

【例えるなら】

NAD⁺を直接摂るのは、完成した家具を狭いドアから無理に運び込もうとするようなものです。一方、NMNやNRを摂るのは、パーツに分解された状態で持ち込み、中で組み立てるような形。
NAD⁺の前駆体として注目を浴びているNMNですがこちらのNatureの論文で小腸からのトランスポーターが見つかっています。

1. 小腸からの吸収

2020年の研究で、NMNが経口摂取後すみやかに小腸から吸収されることが確認されました。トランスポーターSlc12a8(Solute Carrier Family 12 Member 8)
NMNの細胞内取り込みに関与する特異的なトランスポーターで、小腸上皮細胞に高発現しています。

出典:Grozio A, et al. “Slc12a8 is a nicotinamide mononucleotide transporter.” Nature Metabolism. 2019;1:47–57.

この発見により、NMNはNR(ニコチンアミドリボシド)に分解されずそのままの形で吸収されうることが分かりました。

2. 血中への移行と全身分布

NMNは小腸から吸収された後、門脈を経て肝臓に運ばれ、その後血流に乗って各組織へと分布します。全身の臓器—特に肝臓、筋肉、脳などでのNAD⁺合成に寄与します。

出典:Mills KF, et al. “Long-term administration of nicotinamide mononucleotide mitigates age-associated physiological decline in mice.” Cell Metabolism. 2016;24(6):795–806.

3. 細胞内でのNAD⁺合成

細胞内に取り込まれたNMNは、NMNアデニリルトランスフェラーゼ(NMNAT)によってNAD⁺に変換されます。これはNAD⁺生合成の主要経路の一つであり、老化防止・ミトコンドリア機能維持に関与します。

 

いずれにせよ。NAD⁺もその前駆物質のNMNも抗加齢のためには英文論文の知識のキャッチアップが必須ですね。


エクソソームや幹細胞上澄液などの点滴

エクソソームや幹細胞上澄液などの点滴は、まだクリニックFでは勧めていません。

これらの成分が仮に体内細胞を若返らせるなら、日々体内に生まれている小さながん細胞をより元気にしてしまうと思う。

有効成分や危険成分の分離解析技術の研究がもう少し進むと治療に応用できるでしょうね。

一定年齢いくと、放置しておいても細胞は癌化するし、そのためにターンオーバーを抑えて老化してゆくのが人間という生物。

若返りと癌化は対極のベクトルなんだと思うんです。

少し考えるればまだ待ちだと、受ける側もわかると思うんですけどね。

やっぱり情報を取捨選択する教養は必要です。

こうなると打つ医師も打たれる患者も自己責任ですよね。


インドはバンガロールより

今日はインドはバンガロールより、医薬の毒性試験を専門にやってる企業のディレクターがクリニックFに見学に来ました。

多くの新素材の試験は、日本では動物愛護の関係でやりにくく、また高額になっていて、こうしたビジネスの依頼はまだ価格が安いインドなどにいくんですね。

国内のロート製薬の試験を受注したところなのだそうです。

僕も医学と薬学でそれぞれ博士号を取りましたので、新薬のネガティブな面の試験の難しさは知っているつもりですが、こうした分野を引き受けていくのは、まさに理系リテラシーの高い、理系大国のインドですね。

日本も負けていられませんね。


Drug Delivery System “合成高分子による細胞機能制”

僕の薬学博士の専門であるドラッグデリバリーシステムの学会誌。

今月の特集は“合成高分子による細胞機能制”です。

合成した高分子で細胞挙動を制御する研究は近年とても進んでいて、トピックスは以下の通り。

中でも光応答動的材料などはレーザー医療とも直結して興味深く読ませていただきました。

アンチエイジング医療や美容医療にも応用されてくるでしょう。

up to dateしながら知識を蓄えています。今後が楽しみですね。

1. 温度応答型生分解性インジェクタブルポリマーの細胞治療への展開

2. 生きた細胞内の相転移・相分離現象を介した細胞機能操作へ

3. 生体機能化ポリマーによる免疫細胞機能制御

4.生体親和性リン脂質ポリマーを基盤界面とする細胞操作技術

5. 光応答動的材料の開発と細胞移動研究への応用

6. ナノバイオ界面水制御による細胞接着性/非接着性合成高分子の設計


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