昨晩はゴルフ医科学研究所にて定期的に開催している、「バッハ無伴奏チェロ組曲とワインの調べ」でした。
バッハのチェロ組曲も3周目。昨晩は第五番に素敵なワインを組み合わせて、
音楽から 聴覚と触覚
ワインから 味覚と嗅覚
そしてもちろん視覚も刺激する
五感を楽しむ会になりました。
まさに調律の天才のバッハ。何度も聴いているうちに、知識も経験も増えてきます。
昨晩も僕がチェリスト金子鈴太郎さんに質問したのですが、
バッハが《無伴奏チェロ組曲(BWV 1007–1012)》で選んだ6つの調性
1. ト長調(G major, BWV 1007)
2. ニ短調(D minor, BWV 1008)
3. ハ長調(C major, BWV 1009)
4. 変ホ長調(E-flat major, BWV 1010)
5. ハ短調(C minor, BWV 1011)
6. ニ長調(D major, BWV 1012)
五線譜には多くの調があるにも関わらず ト長調で始まり、ハとニの2つは長調と短調が選ばれており、変ホ長調も含まれるのです。
この選定には、どんな意図があったのか?と言う事なのですが、色々調べてみました。
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1. 楽器(バロック・チェロ)の調弦と共鳴効果
バロック時代のチェロは、現代のような金属弦ではなくガット弦を使用しており、自然倍音(オープン・ストリングの共鳴)を活かした演奏が重要でした。そのため、開放弦(C-G-D-A)に合う調性は響きが良く、特にG、D、Cなどは自然共鳴を活用しやすい。
第1番(ト長調)はG弦・D弦の共鳴を活かす最も自然な調。
第3番(ハ長調)はC弦との響きが美しく、豊か。
第6番(ニ長調)は、実は5弦のピッコロ・チェロ(高音弦Eが加わる)で想定されていたとされ、高音域への展開が可能になっている。
調性の選定には、物理的な響きの最適化という技術的な背景があったそうなのです。
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2. 調性による情緒的・精神的コントラスト
バッハは、6つの組曲にわたって明調と短調を交互に配置しつつ、全体として精神的な旅路を感じさせる構成にしています。
第1番ト長調
純粋で明快、始まりにふさわしい
第2番ニ短調
哀愁と深み、瞑想的
第3番ハ長調
豊かで伸びやか、開放感
第4番変ホ長調
崇高で堂々、荘厳な響き
第5番ハ短調
最も重く劇的、バロック的悲劇性
第6番ニ長調
解放と歓喜、到達点として輝かしい
といった感じです。
明暗のバランスだけでなく、「昇華」や「変容」のドラマが仕組まれているのです。
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3. 音楽的・構造的対称性
ある研究者は、バッハが左右対称的に調性を配置しているとも述べています。
中心を軸にして外側へ展開するような構成(G–D–C–Eb–c–D)
ハ長調とハ短調(同主調)を組み込むことで、対位的な平衡をつくる
最後に「ニ長調」で終えることで、精神的に明るく昇華される
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4. なぜこの6つの調だったのか?
結果、バッハがこの6つを選んだのは、以下の3点の調和を実現するためなのですね。
• 楽器の物理的共鳴と技術的可能性
• 精神的・情緒的な対比と物語性
• 調性による構造的な秩序と対称性
つまり、これらは単なる「技術練習曲」ではなく、音響的にも精神的にも構築された「芸術的宇宙」とも言えるのです。
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生演奏による音楽は、聴覚の可聴域の上下の多くの音波を含んでおり、多くは肌の受容体がこれらを受け止めて脳に刺激を送っていて、脳や身体に多くの効果がある事がわかっています。
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感性を豊かにするためにも、生演奏を聴く機会を増やしたいですね。
次回は5月30日。第六番組曲。
解放と歓喜、到達点として輝かしい組曲
まさに集大成です。乞うご期待。