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BLOG 藤本幸弘オフィシャルブログ

MET LIVE VIEWING#5 ワーグナー「ニュルンベルクのマイスタージンガー」

昨日は作曲家であり指揮者であった、ヴィルヘルム・リヒャルト・ワーグナーの命日でしたね。

1883年、ヴェネツィアに旅行中亡くなっています。

旅の途中で亡くなるとは、ある意味羨ましくもあります。

こちらは僕の宝物の一つ。バイロイトで購入した「ニュルンベルグのマイスタージンガー」の楽譜です。

1903年の印刷。112年前のものですが、楽譜は感動を伝えてくれますね。

さて、毎回楽しみにしている、ニューヨークのMET メトロポリタンオペラ ライブビューイング 2014 – 2015。

5作目、いよいよ我がワーグナーによる「ニュルンベルクのマイスタージンガー」が今週は上演されました。

この超大作は、観るだけでも6時間の長丁場。

ワーグナー唯一の喜劇で今回は巨匠ジェイムズ・レヴァインがタクトを振るとあって、本当に楽しみにしていました。

休診日になんとか東銀座の東劇まで行くことができましたよ。

※※※

まずは、今回のマイスタージンガーで舞台に立ったキャスト及びスタッフをご覧ください。

■指揮 ジェイムズ・レヴァイン

■演出 オットー・シェンク

今回の舞台では、舞台演出が実に見事でした。

オットー・シェンクというオーストリアの伝説と言われる演出家を迎え、舞台は非常に写実的で、照明の加減といったら神業の域です。

冒頭から、フェルメールの絵画を思わせるような計算されつくした陰翳と全体のバランス、細部に渡る細やかな美の結晶をオットーは舞台の上に創りだし、観客は幕が上がってすぐその世界観に惹きこまれます。

これにはちょっと僕も度肝を抜かれ、しばし言葉を失いました。

最初から最後まで、数学的な美しさがそこにありましたね。

そして、演者たち。

■ハンス・ザックス ミヒャエル・フォレ(バリトン)

■ヴァルター ヨハン・ボータ(テノール)

■エファ アネッテ・ダッシュ(ソプラノ)

■ベックメッサー ヨハネス・マルティン・クレンツレ(バリトン)

■ボーグナー ハンス=ペーター・ケーニヒ(バリトン)

オペラ好きが観ればわかる、ワーグナーの舞台に過不足ないラインアップ。見事な配置です。

結論から言いますと、ものすごい舞台でした。本当に感動しました。

リヒャルト・ワーグナーと言う人は、僕を含め世界中に「ワグネリアン」という彼の熱狂的なファンを作り、ワーグナー自身が作曲し、台本も書いた傑作オペラの中でいつまでも牽引力を失うことのない人です。

ワーグナーのオペラを一度でも観たことのある方ならわかると思いますが、ひとたび彼のオペラが始まると、幕間以外、彼とその作品以外について考えることが全く許されない空間に午後の、または夜の、あるとても長い時間、身を置くことになります。

ヴェルディやモーツァルトには決してない、自分に対する忠誠心のようなものを観客に求める作曲家だと思うのです。

そして、ただ頭をからっぽにして舞台を楽しむことも許されず、観客はこれまでに培ってきた知性を総動員させて彼の舞台を理解し、その奥に込められた難解で時に判読不能のメッセージを読みとることまで求められます。

ある意味非常にエゴイスティックであり、完璧主義者。

切れ目なく続く、多重に、そして綿密に織りなされた音のタペストリーに観客は毎回巻きとられ、時に息も絶え絶えになるほどその中で苦しみ、いつしかそれが恍惚感に変わり、その頃にはもう彼の熱烈なファンになってしまうのです。

ワーグナーのオペラほど、演者やスタッフを選ぶオペラはないかもしれません。

上手いこと、熟練していることはもちろんですが、ワーグナーに心酔しすぎている人間には多分務まらないことでしょう。

きっと自家中毒のようになってしまうことでしょうね。

ワーグナーにつかず離れず、媚過ぎず、けれど深く理解して舞台に挑むことが出来る人でないと務まらないのです。

そういう意味で、レヴァインは現代を生きる指揮者の中では5本の指に入る、最もワーグナーのオペラを「振ることのできる」指揮者のひとりではないかと思います。

冷静に、時に熱烈に、オケを引っ張り、歌手を導きます。

いや、素晴らしかったですね。


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