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BLOG 藤本幸弘オフィシャルブログ

CLEO:2011 ボルチモア⑨ ロックスアンダソン博士の選択的熱融解理論はもう古い?

さて、クレオの学会会場には

写真のような暗い部屋で、プレゼンテーションを用いて演題発表するブースと

こうしたレーザー機器の展示会場が併設されているのですが、一部展示会場の中で講演をする場所がありました。

日本でもコンベンション会場で、このような場所が設けられることはありますよね。

企業によって招待された講師によるセッションなのです。

今回この会場では特にレーザーの臨床医療利用の話が多くて、非常に興味深く聞きました。

中でもいくつか面白かった演題として、以前のブログでも触れたPTSDや、外傷性の脳障害に対する、赤色光の低レベルレーザー治療が応用されている発表がありました。

皮膚科の世界ではレーザー光がコラーゲンやエラスチンを作る線維芽細胞の活性化をさせますが、一部の光は、脳組織の再生も促進するんですよね。

また、痛みの治療のためにPhotonic Needleというものを使って鍼治療のような治療を行っている施設の発表もありました。

医用レーザー技術は、1983年にサイエンス誌に受理されたロックス・アンダソン博士の「セレクティブフォトサーモライシス(選択的光融解理論) Science 29 April 1983 Selective photothermolysis」をもとに構築されてきました。

しかしながら、30年前のこの理論には、いくつか実際の臨床データと食い違う点があり、

「必ずしもすべて正しいわけではない」

と、経験あるレーザー専門医たちに指摘されてきました。

これには僕も同意します。

ですが、未だにロックス・アンダソンのグループが、医用皮膚レーザーに対するほぼすべての特許を持ち、米国レーザー医学会の重鎮であり、研究者も全てがロックス・アンダソン率いるウェルマン光医学研究所を目指すことから、こと皮膚科医療レーザー技術に関しては「選択的光融解理論」を掘り下げる理論ばかりが研究されてきたという歴史があります。

今回工学系のレーザー医学会に参加して、さまざまなインスピレーションをいただきましたが、今世紀に開発された工学レーザー技術の素晴らしい点を医学に生かすためには、

■フラクショナルレーザーの出現でほぼ検討が終わったレーザー光の 「治療(皮膚変生)」 効果

よりも むしろ

■レーザー光のスキャニング能力を使用した皮膚症状の 「診断」 技術

に、開発の重心をかけたほうが良いのではないかと思いました。

たとえば、現在のレーザーのスキャニング技術やOCT技術を利用すれば、

①顔全体をレーザーによってスキャンして顔のどの位置にシミや毛穴があるかを場所を同定。

②それぞれが、どの深さまで病変があり、どの種類のレーザー光を当てればよいかを予測。

③それぞれの病変にとって、最も適切な波長をチューナブルに選択

④ピコ秒以下のパルス幅の短いレーザーを、1000Hz位でスキャニング照射して、病変部を一瞬で照射蒸散。

・・・なんてことができるのではないでしょうか。

普段利用している医用レーザーの理論よりも、はるかに難しい工学レーザー理論を学会会場で聞いていると、数学Iを習った後に基礎解析や物理学を習い苦戦するより、微分積分を習ったのちに基礎解析や物理学を習い直すような、レーザー医療の学問に対する鳥瞰ができるような気がしました。

レーザーや光を含む電磁波の波動とは、ある媒質自体の振動であり、この振動がエネルギーと運動量を輸送する空間中を動いているわけですから、これをきちんと説明するためには、最低でも微分波動方程式 (differential wave equation)あたりを理解していないといけないのですよね。

これからも技術の進歩は進むでしょうが、この工学系レーザー学会CLEOに参加したことで、自分も医学と工学の両側面からレーザー機器の開発に関わっていけたらと強く思いましたよ。


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