週末の土曜日、診療後に渋谷まで行ってきました。
Bunkamuraザ・ミュージアムで開催されている、「フェルメールからのラブレター展」に行くためです。
土曜日は21時まで開いているんですよね。これは嬉しい。
閉館時間間近ということもあったのか比較的空いていましたので、ゆっくりと絵に対面できました。
今回来日した絵は上の三枚。
《手紙を書く女と召使い》 《手紙を読む青衣の女》 《手紙を書く女》
と、テーマに合った手紙に関連した絵ばかり。
フェルメールは手紙に関連した絵を6枚描いているのですが、そのうちの3枚が来日したことになります。
中でもこちら(画像はWikiよりお借りしました)の「手紙を書く女と召使い」は、アイルランドの首都ダブリンの美術館にあり、今まで現物を見ることがなかったもの。
僕にとって実物に対面した31枚目の作品でした。
そして、個人的には今回来日した中で、なぜかこの絵に一番惹かれました。
「青衣の女」は2010年にアムステルダムで対面したことがあるのですが、その後長期修復作業に入っていました。
今回は、修復が行われたのちの世界初公開なのだそうです。
ラピスラズリを使用した“フェルメールブルー”が一層鮮明になり、一瞬違う絵かと思うぐらい。
僕は修復前の青の色が素晴らしいなと思っていたのですが、これは賛否両論あるかもしれませんね。
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17世紀のオランダというものに、とても興味があります。
僕は、学生の頃から世界史が好きで、医師という職業に就き、国際学会参加を仕事のひとつにしています。
このプロファイルを見れば、きっと世界史に造詣が深い方からは
「そんな背景があれば、17世紀のオランダに興味が沸くのは当然だろう、レンブラントやフェルメールが好きなのも、そこに理由があるのだろう」
と指摘されてしまうことでしょうね。
説明しましょう。
現在オランダがある領域は、もともとスペイン・ハプスブルク家の領土として植民地化されていました。
しかしながら、16世紀前半にドイツにマルティン・ルターが、スイスにツヴィングリおよびジョン・カルヴァンが現れ、宗教革命運動が展開されます。
特にオランダが位置する「ネーデルランド北部地方」は、利潤追求を求めるカルヴァン派が多数を占めていたため、カトリックを強制する宗主国スペインとの間でオランダ独立戦争が勃発したのです。
あまりに戦争が長期化したため、カトリック教徒の多かった南部10州(べルギー及びルクセンブルク)は、独立戦争から脱落しましたが、80年間の独立戦争ののち、1648年のウェストファリア条約でネーデルラント連邦共和国は、国際的に独立を承認されるのです。
17世紀初頭。
日本では関ヶ原の天下分け目の合戦が終わり、江戸時代が幕明けるのと時を同じくして、オランダは東インドを侵略してポルトガルから香料貿易を奪い、オランダ海上帝国を築いて、黄金時代を迎えたのです。
特にフェルメールが画家として活動をした1650年代から70年代は、このオランダの黄金期にぴったりと重なります。
そして、その時代は、情報の共有の仕方、そしてコミュニケーションのあり方ががらりと変わった時期とも重なります。
宗教革命は「聖書に戻れ」と聖書を読むことを勧めましたので、識字率が上昇します。オランダは当時ヨーロッパ1の識字率の高さを誇り、それはそのまま教育水準の高さ、学校教育のレベルの高さを示します。
口頭や絵などで(当時は宗教の)情報を伝達する時代から、文字を使って情報を伝達する時代への変化。
これがどれだけ大きな意味をもつかわかりますよね。
特に科学や医学の分野では、この「文字」によるコミュニケーションが発達することにより広がったこと、発展したことが数知れず、そうした知識をシェアする機会をもつための「学会」が発足されたのも、17世紀だと言われています。
イギリスやフランスを始めとした各国に学術協会ができ、国際的な規模で学会が開かれ始めるのです。
今回の展示テーマにもなっている「手紙」。
識字率の上昇に伴い、ヨーロッパにおいて一般人の間で手紙という文化が花開いたのも、この17世紀なのです。
そして、その文化的レベルの高い黄金期のオランダを、色鮮やかに切り取り描写したのがフェルメールなのです。
フェルメールが描き、今回来日した3枚の絵では、手紙に関わっている人は全員女性です。
女性が手紙を書き、手紙を待ち、手紙を読む姿が、当時いかに斬新だったのか、その姿をフェルメールは絵に残したかったのかと、今さらながら気づくことができました。
そして、展示を見て改めて、文字を読むことのできる幸福とはどれだけかけがえのないものか、考えてしまいました。
人生において「字を読み、文章を理解し、それによって情報を蓄積・応用することができる」ということは、至福のひとつですね。
この展示は3月14日まで開催されているそうです。
お勧めしますよ。