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BLOG 藤本幸弘オフィシャルブログ

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オペラ「アイーダ」

夜のロンドン。ホテルから歩いて向かった先はこちら。

昼にも来たロイヤルオペラハウスです。

今夜の演目は

ニコラ・ルイゾッティ指揮 ヴェルディの大作オペラ「アイーダ」。

ニコラはサンフランシスコオペラのディレクターですが、東京でもタクトを振っていたことがありますよね。

この日のオペラは随分前から日本でチケットを手配していたのですが、発売後まもなく完売になってしまったとのこと。

しかし、上演3週間ぐらい前からキャンセルチケットが少しずつ出てきて、僕も運よくシートを手に入れることができたのです。

嬉しくて、開場すぐに並び、まだガラガラの会場に入りました。

新国際学会周遊記恒例の(笑)劇場天井画です。

色々と見学している内に会場も満杯になってきて、舞台が始まる直前の独特な高揚感が劇場を支配し始めます。

ここで簡単に歌劇「アイーダ」が生まれた経緯と内容についておさらいしておきましょう。

時は1869年。

スエズ運河の開通を記念して、エジプトの提督であったイスマーイール・パシャがカイロに新設される歌劇場のこけら落としに、ご当地のエジプトを舞台にした新作オペラの作成を有名作曲家に依頼します。

依頼相手の一人で本命が、50歳代のジュゼッペ・ヴェルディ。

ヴェルディは当時すでにこの世界の巨匠でした。「リゴレット」や「椿姫」、「ドン・カルロ」といったオペラの名作を作り上げ、地位も名誉も財産も手に入れ、さらにイタリア国の独立にも文化的に寄与している。そんな「すべてを手に入れた」ヴェルディが、ここでまた再び新たなオペラを一から作り完成させるためのモチベーションを維持するには、相当根気も必要だったことでしょう。

スエズ開通記念祝典に2年の遅れはありましたが、1871年 オペラ「アイーダ」は、カイロ歌劇場でめでたく公演の日を迎えることになります。

物語は戦争をしていた古代エチオピアと古代エジプトの架空のお話。

舞台設定では、主人公のアイーダは、現在は奴隷の身分にありますが、実はエジプトに捕らえられたエチオピアの王女なのです。

舞台の始まりには、もう一人の主人公、エジプトの将軍ラダメスが、エジプト王ファラオによって、エチオピアとの戦争の名誉ある総司令官に任命されます。

ラダメスは、

戦争に勝ったのちには恋人のアイーダと結婚したい

と歌います。

アイーダは、ラダメスの勝利を心から願い歌いますが、母国を滅ぼす戦いに勝利を願ってしまったことに気づいて深く後悔し、神に死を望む歌を歌います。

ここで幕間。オーケストラも見に行きました。

昼間に訪れたロイヤルオペラハウスのカフェにも行ってみましたよ。

緯度の高いロンドンでは夜遅くまで明るいのです。コヴェントガーデンがよく見えます。

そんな中、幕入りを知らせるブザーが鳴り、客席に急ぎます。

第二幕ではまず、エジプト軍が勝利する第一報がエジプト王室に入ります。

当時ラダメスに好意を抱いていたエジプト王女アムネリスは、アイーダのラダメスに対する気持ちを疑い、確かめたくて、

「ラダメスは戦死した」

という嘘をアイーダに伝えますが、その動揺をみて、アイーダのラダメスに対する気持ちを察します。

そして、

あなたは私の恋のライバルだ

と打ち明けるのです。

アイーダはラダメスが好きだと言う事実を「滅相もない」と否定しますが、アイーダのラダメスに対する気持ちを、アムネリスの知るところとなります。

舞台は変わって、エジプト軍が勝利した後の、ラメダスの勝利の凱旋が始まります。この際に演奏される曲が、「凱旋の行進曲」とそれに続く「凱旋の場」。

オペラ「アイーダ」で最も盛り上がるシーンです。

エチオピアの捕虜達が多く連れられてきます。その中にも身分を偽ったアイーダの父、すなわちエチオピア王のアモナズロノ姿もあり、アイーダもそれに気づき「父上」と声に出してしまいます。

この曲は、2002年FIFAワールドカップで使用された曲ですので、記憶のある方も多いでしょう。

YOU TUBEで画像を探してみました。

アイーダの凱旋行進曲は良いものがたくさんあって、選ぶのは大変でしたが、中でもこの二つの「映像」が僕の好みでした。

https://youtu.be/Yq_if8R5xZE

映像だけでもこの曲が持つ力と合唱の迫力は伝わりますよね。実際、舞台でこれを観ると、感動で一気に鳥肌が立ちますよ。

ちなみに、この「凱旋の行進曲」は、“アイーダ・トランペット”といわれるとても長い、特注のトランペットを使用して演奏されます。この6組のトランペットは、アイーダの演奏が始まったばかりの当時、公演の度に楽譜とともに貸しだされたのだそうです。

さて、ストーリーに話を戻すと、見事勝利したラダメスは、エジプト王より

「褒美として娘のアムネリスを娶って、私ののちにエジプトを治めよ」

との言葉をもらいます。

ラダメスはアイーダへの気持ちを忘れられませんが、国王の意に逆らうことができず、葛藤を続け、結果、アムネリスと結婚する道を選びます。

ここで第二幕は終了です。

幕間に会場の踊り場に出てみましたが、ドレスアップした多くの紳士淑女が楽しそうに舞台について語り合っていましたよ。

そして、第三幕。

ラダメスがエジプト王女アムネリスとの結婚式を控えた前日。

エチオピア王アモナズロは、娘のアイーダに、故国を復興するために恋人のラダメスにエジプト軍の機密を聞き出すように話します。

ラダメスは久しぶりのアイーダとの逢瀬に喜びますが、一緒に国を逃げようというアイーダに、とうとう機密を漏らしてしまいます。

この話を隠れて聞いていたアモナズロは、機密を聞き知ったと大声を上げた後、アイーダとともに逃亡します。

反対にラダメスはこの機密を話してしまった事に後悔し、自ら罪を償おうとエジプトの神官達に捕まり、裁判の末、地下牢で生き埋めにされる刑を言い渡されるのです。

舞台は地下牢に生き埋めにされるシーンに移動します。

暗い地下牢の地面に差し込む、最後の地上の光が徐々に消えてしまった後、ラダメスは、せめて愛するアイーダだけでも生き延びてほしいと歌いますが、その地下牢に、なんとアイーダ本人が現れるのです。

ラダメスに与えられた刑を伝え聞いたアイーダは、事前にその地下牢に忍び込んでいたのでした。

二人は愛を語り合う二重唱をうたい、天上で結ばれることを誓います。

アイーダがラダメスの腕の中で息を引き取るところで、感動の幕が落ちるのです。

今回アイーダ役をやったミカエラ・カロッシは、ちょっと太めのイタリアのソプラノ歌手。僕は初めて聴きましたが、十分な声量が出ていましたね。通常はエチオピアの王女ですので黒人の化粧をするのですが、今回はそうではありませんでしたね。

彼女は観客全てのスタンディングオベーションで喝采を受けていました。

ですが、何よりも僕が興味深かったのは、今回のアイーダの舞台演出。

未だかつて観た事のない、情熱的かつ官能的なアイーダを観せられて、僕は本当に感動しました。

もちろん一流の歌手による安定感のある演技と歌という、物語の中に気持ちが入ってゆける環境は必要不可欠ですが、同じ脚本で同じストーリーであるにもかかわらず、舞台表現者によって、これだけ印象が変えることができるのはすごいことですよね。

本当にオペラは人類最高の文化的活動。劇場で素晴らしいオペラの場に立ち会う事ができると、心から幸せを感じます。

翌朝はクロアチアに向けて早朝からの移動日。8時間の時差で疲れてもいましたが、興奮覚めやらずホテルまで歩いて帰りました。

それでも、舞台の余韻が冷めず、なかなか寝付けませんでしたよ。


ハロッズで

打ち合わせがブロンブトンロードであったので、終了後ナイツブリッジまで歩きハロッズをぶらぶら。最後に食料品コーナーに行きました。

相変わらずの賑わいです。

飲茶を。

一息ついたところでいったんホテルに戻り、出直します。


コヴェントガーデンでお気に入りのカフェ

ロンドンで好きなカフェをひとつご紹介します。

地下鉄コヴェントガーデン駅下車。

チューブのゲートはライオンキングのシンバになっています(笑)。

コヴェントガーデンを横切りながら…。

ロイヤルオペラハウスに向かいます。

ロイヤルオペラハウスは、開演時間以外、一部開放されており

このオペラハウスの3階に、ロンドンの街を一望できるオープンカフェがあるのです。

 

遠くにロンドン・アイも。

この写真ではわかりづらいですが、僕の左手にガラスがあり、ガラスの向こうではROH舞台出演者のために衣装の準備が行われています。(カメラを向けるのは憚られました)

ずらっとハンガーにかけられた色鮮やかな衣装。アイロンをかけたり、寸法を測ったり、チェックをしたり・・・と立ち働くスタッフの方々。ああ、今日も舞台がもうすぐ開くのだな・・・と、その様子を時折片目で見ながら、もう片方の目ではコヴェントガーデンの町並みとロンドンの空を眺め、ドリンクや軽食を頂く。

座ってるだけで楽しくなるカフェなのです。


イギリスにある5枚のフェルメール

ロンドン・ナショナルギャラリーでは、もちろんフェルメールも見てきました。

僕はフェルメールの絵が好きなのです。

フェルメールの絵は、確認されているもので(諸説あるのですが)世界に37枚あるとされており、イギリスにはその内の5枚があります。

1枚はエジンバラ。残り4枚がロンドン、その内2枚が、ここナショナルギャラリーにあるのです。

ちなみに残り2枚のうち1枚は、バッキンガム宮殿の横にあるクイーンズギャラリー(コレクションは毎年入れ替わるため毎回見られるわけではないのですが)に、もう一枚はロンドン郊外のケンウッドハウスにあります。

 

さて、ロンドン・ナショナルギャラリーにあるフェルメール。

ひとつは、「ヴァージナルの前に立つ女」。

画質が悪かったので、この写真は僕の持っている画集からです。

もうひとつは、こちらの「ヴァージナルの前に座る女」。

この絵はどちらかが留守のこともけっこうあるのですが、今回は両方とも観ることができました。

この「ヴァージナルの前に座る女」は、フェルメール最後の作品といわれています。

そして、絵の構図の中で右上に飾ってある画中画が、ディルク・ファン・バミューレンの「取り持ち女」  です。

フェルメールの妻の実家に飾ってあったとされる絵。

この絵は、昨年10月に、ドレスデン滞在のフェルメールのブログでも鑑賞した、フェルメール自身の作品である「取り持ち女」にも多くの影響を与えたことは、フェルメールファンなら有名な話ですよね。

最後にショップでクリニックに小さなお土産を買って、ギャラリーを後にしました。


ドラローシェ「レディ・ジェーン・グレイの処刑」

ロンドン・ナショナルギャラリーには、以前にも何度か来た事があります。

僕の好きなフェルメールが二点あることもありますが、他にも好きな絵がいくつもあり、また立地的にも気に入っているのです。

でもなぜかここ数年は、時間がなかったのか行く機会に恵まれていませんでした。

今回、何年かぶりに行こうと思ったそのきっかけは、去年人に薦められて読んだこちらの本。

朝日出版社から出ている中野京子さん著「怖い絵」シリーズ。

この本は本当におもしろく、絵が好きな人にもそうじゃない人にもお勧めしたい名著。絵の見方が変わるのです。その絵を見る視点も文章も素晴らしく、世界史好きにはたまらない本なのです。

この「怖い絵」に、何作かロンドン・ナショナルギャラリーにある絵が出てきます。

■ルーベンス作「パリスの審判」

■プロンツィーノ作「愛の寓意」

■ファン・エイク作「アルノルフィニ夫妻の肖像」

■ゲインズバラ作「アンドリューズ夫妻」

■ホガース作「グラハム家の子どもたち」

■マセイス作「醜い公爵夫人」

・・・

どの絵も以前に見た筈なのに、

「こういう見方があるのか!」

と、とても勉強になり、もう一度改めて見に行きたくなったのです。

トラファルガースクエアの目の前にあるロンドン・ナショナルギャラリーは、特別展以外は無料で見ることができます。

今回は、「怖い絵」にも出てくるデラローシェ作「レディ・ジェーン・グレイの肖像」とそれにちなんだ絵画が特別展として公開されていました。

16世紀のイギリスの女王というと、ブラッディメアリーとエリザベス一世が有名ですが、実はその前に9日間だけイギリス王位に担ぎ出された女性がいたのです。

それがこの「レディ・ジェーン・グレイ」

政権闘争の狭間でヘンリ7世の曾孫という血筋で王位継承闘争に担ぎ出されたのですが、在位わずか9日で、メアリによって王位をはく奪され、その後ロンドン塔に幽閉されて、わずか16歳で首を切られてしまいます。

彼女はラテン語やギリシャ語が堪能な非常に優秀な人物だったらしく、悲運の女王としてイギリス国内にもファンがたくさんいます。

夏目漱石の「倫敦塔」にも、彼女の記載がありますよね。

この絵がナショナルギャラリーに展示されているポール・ドラローシュの「レディ・ジェーン・グレイの処刑」。非常に大きな絵で、画中の人たちが等身大ぐらい。

特別展では、この絵と共に、この絵のためのデザイン画が多く展示されていました。

目の前で見ると、まずはジェーンが着ているドレスの美しさが目を引きます。上質な絹であることがわかり、その衣擦れの音が聞こえてきそうなほどリアルなのです。

枯れ草の中におそらくジェーンの前に処刑された人の滴った血や、ジェーンの処刑を前に、気を失ってしまった侍女、処刑人の持つ輝く斧の先など、ものすごい迫力で迫ってくるのです。

以前に何度かこのナショナルギャラリーで見たことがあり

「一度見ると忘れられない絵だなぁ」

・・・とその度に思っていましたが、改めてその迫力を目の当たりにしました。


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