TakahiroFujimoto.com

HOME MAIL
HOME PROFILE BOOKS MUSIC PAPERS CONFERENCES BLOG MAIL CLOSE

BLOG 藤本幸弘オフィシャルブログ

BLOG|ブログ

祝 ノーベル化学賞の日本人受賞

今日は朝から何やら忙しく、ブログを書く時間が全くありませんでした。

クリニックFの休診日は木曜日と日曜日なのですが、明日の木曜日を臨時開院して、明後日からスウェーデンのイェーテボリで開催されるヨーロッパ皮膚科学会(EADV)に参加します。

今、同じスウェーデンのストックホルムでは、今年のノーベル賞受賞者が続々と発表されていますね。

先ほど、鈴木章・北海道大名誉教授、根岸英一・米パデュー大特別教授のお二人が受賞されることになって、今年の日本の科学会きっての明るいニュースになりました。

医学の分野での興味の対象は、やはり生理学医学賞になります。今年は体外受精の技術を確立したRobert G Edwards博士になりましたね。

再生医療のiPS細胞(万能細胞)の技術を世界で初めて樹立した京都大学の山中伸弥教授も有力候補と言われていたのです。

しかし、最近のノーベル賞は画期的な発表よりも、発表から20年ぐらい経過して、社会的価値が確定したものが受賞する可能性が高いのだそうです。受賞はもう少し先になるのでしょうか。

ちなみに、ノーベル医学生理学賞を決定している組織は、スウェーデンのストックホルムにあるカロリンスカ研究所という、世界最大の医科単科の大学研究所の中にあります。

今回スウェーデンでのヨーロッパ皮膚科学会開催ということで、是非とも訪問したかった先の1つなのですが、なぜか学会はストックホルムではなくて、スウェーデン第二の都市イェーテボリでの開催になりました。

考えてみれば、ちょうど10月のノーベル賞の発表もあり、ストックホルムでの開催は外されたのでしょう。世紀の研究者の祭典がどんな雰囲気なのか、この目で見てみたかった気もしますね。


痛みが見える最新診断機器

このブログで何度か書いていますが、僕は痛みの治療に興味があって、研修の初期に痛みの専門家である麻酔科を選択しました。

6年間で専門医を取得したのちに、レーザー皮膚科に転科して、10年間がたちました。

現在も日本ペインクリニック学会認定医の資格を持っていますが、初期に麻酔科を選択して良かったと思うのは、痛みに関する知識の深さだとおもいます。

痛みという概念と知識を、研究題目として個別に深く掘り下げることは、麻酔科以外の選択ではできなかったと思いますので、この知識は僕の財産の1つですね。

僕が所属している日本ペインクリニック学会からは定期的に学会誌が送られてきます。この雑誌は1995年に僕が最初に書いた医学論文が(1996年掲載)掲載された医学雑誌でもあります。

当時、病名の再編成が行われた「CRPS(複合性局所性疼痛症候群)」という病気の日本での第1報の報告をしたのです。

僕の指導教官の着眼点がとてもよかったのですよね。

今回送られてきた号の総説に「痛みの機能的画像診断」の最新知見の話が載っていて、とても興味深く読みました。

不快な感覚・情動を伴う主観的体験である痛みは人によってとらえ方が違うので、客観的に評価することは非常に難しく、これが痛みの治療を複雑・困難にしてきた原因の一つでもあります。

しかしながら近年、

ポジトロン放出断層撮影(PET)

機能的核磁気共鳴画像(fMRI)

核磁気共鳴スペクトロスコピー(MRS)

などの画像医学の進歩によって、痛みを感じる際に脳内のどの部位が活性化されるのか、さまざまな知見が明らかになって、痛みを客観的に評価できるようになってきたのです。

さらに、上記の機能的画像診断法に加えて、脳内の形態を立体的に診断する3D-MRIを応用した

voxel-based morphometry (VBM)

などによって、脳内組織の容積を直接測定し、慢性痛などの患者の場合、どのような脳内変化があるのかを調べられるようになりました。

これら脳の機能的、形態的画像診断法は、痛みに対する画期的な客観的判断材料になります。現在は高額医療検査だと思いますが、徐々にコストが落ちてくれば、治療の選択肢も広がるのではないかと、とても期待しています。

ところで、脳の動きが客観的に診断できるようになったことで、興味深い事がわかってきました。

それは、「心の痛み」や、「他者の痛み」を感じると、実際に肉体的な痛みを感じた場合と同じような変化が大脳辺縁系(旧脳)で起こるのです。

サイエンス誌(2003年)にも掲載されていますが、仲間はずれやいじめなどの「社会的な疎外(Social exclusion)」を受けている時には、身体的な痛みと同様な脳領域が活性化されるのです。

これは痛みが「感覚」ではなく、恐怖、嫌悪、怒りなどと同じようなネガティブな「感情」でもあるのだということを表しています。

「心の痛み」が実際の痛みに近い感覚があるのは経験的にわかっていたつもりですが、これが脳機能画像診断機器で証明されるなんて、興味深くありませんか?

今回執筆している本では、こんな話題についても触れています。


旧脳に作用する音楽とアロマセラピー②

前回のブログで、

「クリニックFは、痛くないレーザー治療を実践するために様々な工夫を凝らしている」

といったようなことを書きました。

そして、その工夫のひとつがこだわりのBGMであり、もうひとつがアロマセラピーの採用である、と。

「クリニックFでアロマセラピーを採用している理由は、スパ的なリラクゼーション効果を求めてではなく、アロマセラピー・・・香り/匂いが旧脳に及ぼす痛みへの作用を考慮してのことである」

とも書きました。

このあたりについて詳しく今日は書いていきたいと思いますが、まずそもそも「痛み」とは何か、ということをクリアにしていきましょう。

世界疼痛学会(IASP)で決定された、「痛みの定義」という ものがあります。それによると

「「痛み」とは、実質的、または潜在的な組織損傷に結びつく、あるいはそのような経験から表現される不快な感覚、または情動経験をいう。」

と定義されています。

「情動経験」・・・日常生活でなかなか聞きなれない言葉ですが、“情動”とは短時間で強く作用する脳とホルモンや免疫系、生体物質における興奮状態としての「生理反応」であり、わかりやすく定義すると「感情の動き」ということになります。

つまり、痛みとは「感覚」であると同時に、それに伴う「感情の動き」でもある、ということなのです。

この「情動」の部分に、音楽と香りが深く関わってきます。

感情の動き=「情動」を司っているのは、大脳辺縁系を中心とした旧脳です。

医学的に説明すると、人が外界を認識する感覚機能――いわゆる人間の「五感」――は①視覚・②聴覚・③嗅覚・④触覚・⑤味覚ですが

このうち①視覚、④触覚、⑤味覚は脳の「大脳皮質の連合野」と呼ばれる場所で、過去の記憶を含めた情報が補われることによって脚色・肉付けがなされ、初めて情報消化される感覚です。

一方で②聴覚と③嗅覚からの感覚は、情動を司る大脳辺縁系に直接刺激を与えます。

喜びや悲しみ、恐怖や感動などに対して、より強い影響を与えるのです。

日常の中で触れる音や匂いには様々なものがありますが、脳に心地よい音をリズムやハーモニーにしてつなぎ合わせ、旋律(メロディ)となったひとつの音楽として「音を楽
し」んだり、草花や樹木の香り、磯の匂い、懐かしい母親の味・・・など、深い呼吸と共に「香りを楽しむ」と、脳内の複雑な神経ネットワークに、さらに大きな刺激が与えられます。

この大きな刺激が、痛みの刺激を上回った場合。

つまり耳に入るリズムや旋律、鼻腔を刺激する香りにすっかり心奪われた場合。

痛みがその瞬間消えることがあるのです。

専門的な言葉で言うと、音楽や香りの刺激が痛みの刺激を上回って、痛みを「マスク(覆う)」してしまうのです。

音楽の旋律による聴覚刺激や、香りの刺激による嗅覚刺激に脳が集中したことで、痛みを含めた音楽以外の情報刺激に対して、脳が感じづらくなるというわけです。

クリニックFで痛みを緩和する目的で、音楽やアロマセラピーにこだわっている理由がお分かりになっていただけましたでしょうか?

エレベーターが開き、クリニックFの扉を開いた瞬間から、痛みを感じづらくなる仕組みと工夫が随所に施されているのです。


ピアニスト エミール・ギレリス

こちら。

ロシアのピアニスト「エミール・ギレリス」のEMIクラッシックレコードの全集です。

元ソヴィエト連邦出身のピアニストであるエミール・ギレリスは、初めて西側での演奏旅行を許可されたピアニストです。

この演奏家がフィラデルフィア交響楽団とカップリングした、チャイコフスキーのピアノ協奏曲第一番のLPの演奏があまりにすばらしくて、クラシックに傾倒するきっかけになったのです。

僕の父のコレクションだったこのレコードをA面ばかり、それこそ擦り切れるまで聴き込んだのを覚えています。

ギレリスは1985年に亡くなったのですが、ちょうどそのころに中学生だった僕は、報道を聞いてひどくショックを受けたんですよね。

今日この全集をクリニックのi-tunesに入れる作業をしていてふと気づいたのですが、この全集の7枚目のチャイコフスキーのピアノ協奏曲第一番のCDは、僕が25年前に聴いていた音源だったのですよ。

ミスタッチの場所も記憶とまったく同じ。

久しぶりに聴いたので嬉しい再会という感じでした。

 


旧脳に作用する音楽とアロマセラピー①

先日知人の医師から質問を受けました。

クリニックFで、アロマセラピーを導入している理由はなんですか? スパ的効果を狙ってですか?」

というもの。

彼はこれから開業を考えていて、その参考に知りたかったようです。

大学や医局で、アロマセラピーを含めた代替療法を医師が学ぶことはありません。医療経営についてももちろん学ぶ機会はありませんし、スタッフのマネジメントやPR/マーケティングの手法、インテリアを含めたヴィジュアルプレゼンテーションなどについても、医局で働いている限り未知の領域です。

こうしたことは開業すると選択を迫られることの連続ですから、これから新規クリニックを開業しようとお考えのドクターから、こうした部分でご相談を受けることが結構少なくないのです。

院長になってしまうと孤独ですからね(笑)。院長になる前のただの一医師のときにあれこれ知っておきたい、という気持ちは僕もよくわかるように思います。

さて、件のアロマセラピーについてですが、クリニックFでこれを導入しているのは、スパ的役割。つまりリラクゼーションを求めてのことではないのです。また、薬理的作用を求めている訳でもありません。

求めているのは、嗅覚がもたらす大脳辺縁系を中心とした旧脳への直接刺激の作用、そして痛み緩和への効果です。

鼻孔から脳に刺激を送る香りや匂いには様々なものがありますが、院内で持続的に使用できるもので商品化されているものには限りがあります。あれこれ検討した結果、利便性と安全性を考えるとアロマセラピー製品の使い勝手が良かった、ということなんですね。

僕は、このレーザー美容皮膚科の世界のキャリアが10年を超えてしまいましたが、初期研修は麻酔科からスタートしました。日本ペインクリニック学会認定医でもあります。

麻酔科とレーザー・・・どう結びつくのか? と言われてしまいそうですが、僕の中ではきちんと辻褄があっています。

世界最先端の工学機器に触れる仕事がしたい、と、僕は子どもの頃から思っていました。その後いくつかの道筋を自分なりに選択した結果、医師となり、痛みの治療を専門とするようになったわけですが、不眠不休の研修医時代を経てふと立ち止まったときに

「自分の専門性を生かしながら、子どもの頃の夢を実現することも可能なのではないか?」

と思いついたのです。

人生短いですし、明日はどうなるかわかりませんから(笑)、自分のルーツのようなものを大事にしながら、職業人生を全うする方法もあるんじゃないかな、と思ったんですよね。

工学の世界も医療の世界も、僕よりすごい専門性をもたれている方々は沢山います。僕がそこに挑んでも無理がありますから

医療における僕の個性やオリジナリティを生かしながら、工学の世界に触れた仕事で出来ることがあるのではないか?

そんなふうに考えてみたのです。

そして思い至ったのが、

「痛みを最小限まで抑えた、世界最先端のレーザークリニックを創る」

ということだった、というわけです。

クリニックFの表テーマは「世界の学会からリアルタイムで仕入れた最新情報と技術を得られる、アンチエイジングレーザークリニック」ですが、裏のテーマは「痛くないレーザー治療院」なのです(笑)。

痛みというのは、人間にとって生物学的にも最大のストレスのひとつですが、これを最小限まで抑えるために、クリニックFでは様々な工夫をしています。

西洋医学的なアプローチとして、僕が機器に合わせて調合したいくつかの麻酔薬を使用する、というのが最も直接的なものですが、それ以外に、音楽やアロマにこだわっているのは、痛みへの作用を考えてのことなのです。

長くなってしまったので、続きは次回に。


カテゴリー