【新国際学会周遊記──5.7兆円の医療資材赤字、国産化は夢か現実か?】
最新の貿易統計を見ると、日本の医薬品と医療機器の貿易赤字は合わせて約5兆7,000億円──防衛費に匹敵する規模です。この巨額赤字に対して「国産化すればいいじゃないか」という議論が必ず起こりますが、現場目線で言えば、話はそう単純ではありません。

■ 「国産化」の壁とは?
◎バイオ医薬の現実
バイオ医薬品や希少疾患薬は、開発から製造まで極めてハイテク化・国際化しており、特に抗体医薬や細胞治療薬は原料も技術も国内で簡単には賄えません。加えてグローバル臨床試験が必要で、製造を日本に戻すには長期的な投資と仕組みづくりが不可欠です。
◎医療機器の構造問題
MRIやCT、心臓デバイスなどの高額機器は、海外勢の特許とブランドが市場を独占。日本国内では特に部品供給や周辺機器にとどまり、製品丸ごとの国産化は簡単ではありません。さらに厚労省の認可の問題。無失点が大切な官僚にとって、何も認可をしない事が最も出世に繋がりますので、今の体制が続く限りは、余程の大義がない限り、難しいのでしょう。
■ どこからなら可能か?
◎まずは中価格帯から
・超音波診断、レーザー美容機器、一般医薬品などは国内回帰しやすい領域
・ジェネリックやOTCは特に短中期で国産シフトが可能
◎安全保障の観点も忘れずに
感染症など有事の際に「国内で作れるか」は国家のレジリエンスにも直結します。
◎雇用・地域経済効果
医療産業は高度な雇用を生み、地域の経済基盤にも貢献可能です。特に地方の医療クラスターの育成がカギ。
■ 国産化の「落とし穴」
◎コスト高リスク
日本は賃金も電気代も高いため、薬価制度次第では「国産高止まり」で国民負担が増す危険も。
◎技術空洞化の懸念
ただ作るだけの産業になれば、逆に高付加価値の開発力が失われていくリスクもあります。
■ 現実解としての処方箋
【優先順位の明確化】
・「命を守る薬」「外貨が一番流出している領域」「比較的転換しやすい汎用品」
この3段階で明確にターゲットを絞り、段階的に国産化を進める。
【原料から製品まで】
ただの組立ではなく、原料、中間製品含めた一気通貫のサプライチェーンづくり。半導体産業と同じ発想。
【内需だけでなく外需も】
日本の人口は減少中。ASEANやインド向け輸出も最初からセットで戦略を立てること。
■ 参考になる日本の成功体験もある
・内視鏡や光学医療分野で世界シェアを取った成功モデル
・タミフルのような感染症対策医薬の国産化事例
・美容医療機器など自費診療領域でのアジア展開
■ 結論──「国産化」だけでは不十分
短期はジェネリックと汎用医療機器の強化、中期は高付加価値分野の国内一貫供給化、そして長期は革新的な医療産業を育てるイノベーション強化。この三段階で進めないと、赤字削減どころか逆に保険財政の悪化を招きかねません。
単なる製造業の議論ではなく、医療安全保障、産業育成、財政健全化の三位一体としての国家戦略が必要──これが医療資材赤字への“現実的”な解答だと考えます。
