【新国際学会周遊記──皮膚バリアの地政学】
今月号の欧州皮膚科学会誌。表紙論文が興味深いです。
今回の図は、まさに「皮膚の地政学」を視覚化した一枚──といった印象です。
皮膚は全身に広がる臓器ですが、その機能は一様ではなく、“局所ごとの特色”を持っています。これを科学的に分類し、わかりやすく示したものが本図です。
3つの地域分類:
Sebaceous region(皮脂腺優位部位)
顔・上胸・背部に多い。Physical Barrier:薄い角層、緻密なCDSN/DSG発現。Microbiome:Cutibacterium(旧Propionibacterium)が優勢。Clinical Relevance:ニキビ・脂漏性皮膚炎の発症部位。
Dry region(乾燥部位)
四肢外側、体幹部に多い。Physical Barrier:角層が厚いが脂質含量が低い。Microbiome:低多様性、アクネ菌よりもStaphylococcus優位。Clinical Relevance:乾燥性湿疹やアトピー性皮膚炎が出やすい。
Moist region(湿潤部位)
関節屈側、鼠径、腋窩。Physical Barrier:汗腺・脂腺活動が強く角層が柔らかい。Microbiome:CorynebacteriumやStaphylococcus aureusの影響が強い。Clinical Relevance:間擦疹、感染症(カンジダ、黄色ブドウ球菌)の好発部位。
臨床応用の視点
1. スキンケア選択の個別化
乾燥部位には保湿重視、皮脂腺部位には抗炎症・抗菌アプローチ、湿潤部位には通気性確保──ターゲット部位ごとに製品設計が求められます。
2. マイクロバイオーム療法の未来
菌叢の組成も部位で異なるため、同じ「善玉菌」でも顔と足で効果は異なる可能性。部位特異的プロバイオティクスの開発が進むでしょう。
3. 疾患の局在性の理由
アトピーの肘膝屈側優位、脂漏性皮膚炎の顔面優位、尋常性乾癬の伸側優位──その理由が“バリアの地政学”で説明できます。
総じて、皮膚科学は“均質な一枚皮”という常識から、“生体最大の局所臓器”へとパラダイムシフトしていることが示されています。
この流れ、臨床家としては非常に実用的な視点です。
この図を見てふと思ったんですが、湿潤エリアに対する永久脱毛施術は、短期的には美しいけれど、長期的には問題が出てくるかもしれませんね。


