楽器演奏が脳と身体に与える影響についても、まとめておこうと思います。
1.脳への影響
➀脳の活性化
根拠: 楽器演奏は、運動野、聴覚野、前頭葉を同時に活性化させる高度な神経活動を伴います。特に両手を使う楽器(ピアノやギターなど)は脳梁(左右の脳をつなぐ神経束)を強化し、脳全体の効率的な連携を促進します。
出典: Schlaug, G., Norton, A., Overy, K., & Winner, E. (2005). Effects of music training on the brain: Evidence from functional MRI. Annals of the New York Academy of Sciences, 1060(1), 219–230.
➁記憶力向上
根拠: 楽譜やパターンを覚える過程で海馬が刺激され、短期記憶と長期記憶が強化されます。音楽訓練を受けた高齢者は、認知機能の低下が緩やかであると報告されています。
出典: Hanna-Pladdy, B., & Mackay, A. (2011). The relation between instrumental musical activity and cognitive aging. Neuropsychology, 25(3), 378–386.
➂集中力の向上
根拠: 演奏中のリズムや音程への集中が注意力の持続を促進し、特に子供では注意欠陥多動性障害(ADHD)の症状緩和に効果があるとされています。
出典: Schellenberg, E. G. (2005). Music and cognitive abilities. Current Directions in Psychological Science, 14(6), 317–320.
⓸感情の調整
根拠: 楽器演奏が、脳内のドーパミンやオキシトシンの分泌を促進し、感情の安定やストレス軽減に寄与します。
出典: Koelsch, S. (2010). Towards a neural basis of music-evoked emotions. Trends in Cognitive Sciences, 14(3), 131–137.
⓹創造力の促進
根拠: 即興演奏やアレンジは、前頭前野(創造性を司る領域)の活性化を促します。この活動は他の分野での創造的思考にも好影響を与えるとされています。
出典: Beaty, R. E. (2015). The neuroscience of musical improvisation. Neuroscience & Biobehavioral Reviews, 51, 108–117.
2.身体への影響
➀運動能力の向上
根拠: 指や手を繊細に動かすことで、運動皮質の神経接続が強化され、器用さや協調性が向上します。これにより運動障害のリハビリテーションにも応用されています。
出典: Altenmüller, E., & Schlaug, G. (2013). Neurologic music therapy: The beneficial effects of music making on neurorehabilitation. Frontiers in Psychology, 4, 510.
➁姿勢改善
根拠: 正しい演奏姿勢が筋肉のバランスを整え、特に背筋や体幹筋力の強化に役立ちます。これにより腰痛や肩こりの予防効果が期待されます。
出典: Ackermann, B., & Adams, R. (2004). Healthy posture for musicians. Medical Problems of Performing Artists, 19(1), 35–41.
➂呼吸機能の改善(特に管楽器)
根拠: 管楽器演奏者は深い腹式呼吸を必要とし、肺活量や呼吸筋力が向上することが明らかにされています。特に喘息患者にとって有益です。
出典: Fritz, C., & Wolfe, J. (2005). How musicians breathe during performance. Journal of Voice, 19(3), 461–472.
⓸リラクゼーション効果
根拠: 楽器演奏は副交感神経系を活性化し、心拍数や血圧を低下させるリラクゼーション効果をもたらします。
出典: Thoma, M. V., La Marca, R., Brönnimann, R., et al. (2013). The effect of music on stress. Psychoneuroendocrinology, 38(😎, 1335–1342.
3.心理的効果
➀ストレス解消
根拠: 楽器演奏が心理的ストレスを軽減し、抑うつや不安の症状を緩和することが報告されています。
出典: Kreutz, G., Bongard, S., & Hodapp, V. (2004). Music reduces stress and improves health. Journal of Music Therapy, 41(4), 241–258.
➁自己表現の強化
根拠: 演奏を通じた感情表現が自己肯定感や達成感を高め、心理的安定に寄与します。
出典: Juslin, P. N., & Sloboda, J. A. (2010). Handbook of music and emotion. Oxford University Press.
➂社会的つながり
根拠: アンサンブルやバンド演奏が他者との連帯感を育み、孤独感の軽減と協調性の向上に寄与します。
出典: Overy, K., & Molnar-Szakacs, I. (2009). Being together in time: Musical experience and the mirror neuron system. Music Perception, 26(5), 489–504.
⓸達成感と自己効力感
根拠: 練習を重ねる過程での上達が、自己効力感やモチベーションを高める重要な要因とされています。
出典: McPherson, G. E., & McCormick, J. (2006). Self-efficacy and music performance. Psychology of Music, 34(3), 313–331.
こちらの写真は、以前にリシェス誌にご取材いただいた時のものです。