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BLOG 藤本幸弘オフィシャルブログ

ビタミンB群考――疲労回復とミトコンドリア、アンチエイジング物質NMNとの関わり

ビタミンB群考――疲労回復とミトコンドリア、アンチエイジング物質NMNとの関わり

ビタミンB群と一口に言っても、それは1つの物質ではない。ビタミンB1からB12まで、それぞれがまったく異なる構造と機能を持ちながら、代謝というひとつの大きなオーケストラを指揮している。それらを総称して「ビタミンB群」と呼ぶこと自体、ある意味では栄養学的便宜であり、だからこそ個別の役割をきちんと理解する必要がある。

まずビタミンB群の最大の特徴は、補酵素(コエンザイム)として代謝に深く関与することである。糖質・脂質・タンパク質の三大栄養素をエネルギーに変える過程には、必ずと言っていいほどビタミンB群が登場する。つまり、これが不足すればどれほど高栄養の食事を摂っても“燃やす”ことができない。

たとえば、B1(チアミン)は糖代謝に不可欠で、TCA回路に入る前の「ピルビン酸→アセチルCoA」の変換に関わる。B2(リボフラビン)はフラビン酵素群(FMN, FAD)を構成し、電子伝達系の主役。B6(ピリドキシン)はアミノ酸代謝の要であり、B12や葉酸はDNA合成と深く関わっている。

このように、ビタミンB群は細胞の“発電所”であるミトコンドリアの円滑な運転に不可欠な潤滑油であると言ってもよい。加工食品中心の食生活では、エネルギーを摂ってもビタミンB群が足りず、“燃えない疲労”や“隠れ栄養失調”に陥ることがある。

加えて、ビタミンB群は互いに協調して働くため、単独摂取ではなく複合摂取が原則である。市販されているBコンプレックス製剤には、B1、B2、B6、B12、ナイアシン、パントテン酸、ビオチン、葉酸などがバランスよく含まれており、ストレスや疲労が強い時の補助に適している。特にB6・B12・葉酸の三者は、ホモシステイン代謝に関与し、動脈硬化のリスク軽減にも注目されている(Homocysteine Lowering Trialists’ Collaboration. BMJ. 2002;325(7374):1202)。

しかし注意すべきは、B群はすべて水溶性であるため過剰分は尿中に排泄されるという点だ。「黄色い尿=無駄になっている」と言われることもあるが、それは一部でしかない。むしろ、体が必要な分だけ使って残りを排泄するという“調整可能なビタミン”であるという見方の方が正しい。

近年では、B群をミトコンドリア活性化の観点から再評価する研究も進んでおり、抗老化、神経保護、さらにはうつ病や慢性疲労症候群における補助療法としても検討されている(Kennedy DO. Nutrients. 2016;8(2):68)。

ビタミンB群と聞いて、最初に思い浮かべるのは「疲労回復」かもしれない。しかし、B群は単なる滋養強壮剤ではない。細胞の“燃焼炉”であるミトコンドリアにとっては、不可欠な補酵素であり、神経・皮膚・造血・DNA合成といった極めて多彩な役割を果たしている。

中でもビタミンB3(ナイアシン)は、その歴史において人間の精神に深く関わってきた。アメリカ南部では20世紀初頭、「ペラグラ(Pellagra)」と呼ばれる奇病が社会問題となっていた。皮膚炎・下痢・認知障害を三徴とし、最終的には死亡に至る病。南部の貧困層に多発し、一時は感染症や遺伝病と考えられていたが、1915年にジョセフ・ゴールドバーガー博士が「これは栄養失調、特にトウモロコシ中心の食生活によるナイアシン不足である」と指摘。ペラグラの患者に肉や酵母を与えたところ症状が改善し、その原因がB3欠乏症であると判明した(Goldberger J. Public Health Reports. 1915)。この発見は、栄養不足が精神病を引き起こすという認識を医療界に広めた。

実はナイアシンは、現代の精神医学でも注目されている栄養素のひとつだ。かつてノーベル賞候補にも挙がった精神科医エイブラム・ホッファーは、統合失調症の患者にナイアシン大量投与を行い、一定の改善効果を報告している(Hoffer A. Int J Neuropsychiatry. 1966)。もちろん科学的議論は続いているが、「ビタミンB群が心に効く」という知見は今なお臨床で活きている。

そして現代。B群の中でもB3の代謝産物として生まれたNMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)が、アンチエイジング研究の最前線に登場してきた。NMNは体内でNAD+に変換され、ミトコンドリアでのエネルギー産生やサーチュイン活性化に関わる。これは老化やDNA修復、さらには概日リズムに関与するとされており、ビタミンB3の“高次代謝物”としての機能を再定義しつつある(Yoshino J et al. Cell Metab. 2011;14(4):528–36)。

ただし、NMNは薬品ではなく、あくまで補助的な栄養成分である。日常でB群を補う場合には、やはりBコンプレックス(複合製剤)としての摂取が基本だ。B1(糖代謝)、B2(脂質代謝)、B6(神経伝達)、B12・葉酸(造血・DNA合成)などが連携してこそ、初めてその“代謝の交響楽”は響く。

また、B群はストレス応答やホモシステイン代謝にも関わるため、心身のバランス維持にも重要である。現代のような高ストレス社会では、B群不足が慢性的な疲労感や集中力低下の原因となることも少なくない。

ビタミンB群とは、代謝の根幹に関わる「静かなマエストロ」であり、かつてペラグラで苦しんだ人々の心も、NMNを介して未来の寿命延伸に挑む現代科学も、すべてその延長線上にある。

僕たちが日々の中で何気なく摂っている栄養素の奥に、これだけの“知的な物語”が広がっているという事実は、やはり驚嘆に値する。


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