「美の条件」とはなにか?
考えれば考えるほど、実に奥深い問いである。
外面的な美や、内面的な美。
美という概念は単なる視覚的・感覚的体験を超え、脳内で起きる複雑な生理学的・神経学的現象に根差している。
いくつかの研究から導き出される代表的な条件を示すと。
①「美」は脳で作られる
「美」とは対象物そのものではなく、対象物を認識する脳が作り出す主観的現象である。
2004年、Semir ZekiらはfMRIを用いて美的経験時の脳活動を解析し、美しいものを見ると脳の前頭眼窩皮質(orbitofrontal cortex; OFC)が活性化されることを報告した(『Proceedings of the National Academy of Sciences』, 2004年, 101巻, 6321-6325頁)。
この領域は価値判断、感情評価、報酬系に深く関わっているため、脳が対象物を美と感じる際、価値判断システムが強く働いていることがわかる。
②「美」は快感と強く結びつく
美的体験は、脳内報酬系、特にドーパミン経路が活性化され、「快感」を生み出す。
2011年、IshizuとZekiの研究は、美的評価が高いほど脳の報酬中枢である線条体(striatum)や眼窩前頭皮質(OFC)が活発に活動し、これが快感や喜びを感じる報酬系と同じ経路であることを明らかにした(『PLoS ONE』, 2011年, 6巻, e21852頁)。
また、音楽を聴いて「鳥肌」が立つような美的経験(frisson)の際には、線条体におけるドーパミン放出が観察されている(Salimpoor VN et al. 『Nature Neuroscience』, 2011年, 14巻, 257-262頁)。
③「美」は調和(Harmony)とバランス(Balance)を含む
古代ギリシャ以来、「調和」や「バランス」は美の重要な条件であるとされてきたが、近年の神経美学(Neuroaesthetics)の研究も、この考えを支持している。
例えば、顔や身体のシンメトリー(左右対称性)が美的評価を高めるという事実は、進化心理学においても広く知られる(Rhodes G. 『Annual Review of Psychology』, 2006年, 57巻, 199-226頁)。
④「美」は進化的な適応である
美への反応が進化的な適応として捉えられることも多い。
例えば、健康で生殖能力の高い個体を示す指標として、対称性やプロポーションなどの特性が無意識に「美」として脳内で処理されていることが知られている(Gangestad SW & Thornhill R. 『Trends in Cognitive Sciences』, 1999年, 3巻, 452-460頁)。
⑤「美」は文化的影響を受ける
一方で、脳の「美」の基準は完全に普遍的なわけではない。文化や時代背景、経験に強く影響される。
神経美学においても、個々人の経験や文化背景が、美に対する脳の反応を変えることが確認されている(Han S et al. 『Culture and Brain』, 2013年, 1巻, 2-15頁)。
以上をまとめると、
〇美とは、脳が生み出す主観的現象であり、脳内報酬系の快感を伴う。
〇進化的適応として遺伝的に組み込まれた要素と、文化的・個人的要素の相互作用が複雑に絡み合い、美を形成している。
ということになるだろう。
これこそが、美のもつ奥深さ、そして研究対象としての面白さである。
ちなみに生成AIに美について描かせるとこのような抽象画が出てきた。
