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書道における「間(ま)」と脳のタイミング調整

書道における「間(ま)」と脳のタイミング調整

小学校のころから字を書くのが嫌いでした。しかもせっかちな性格なので、書道も早く終えることを目標としていたので、まさか大人になってから自分が書道に興味を持つとは思ってもいなかったのです。

僕もゴルフ医科学研究所で定期的に開催している「書酔の会」で白石雪妃さんに筆の運び方を学び、一つ感じたことがありました。

それは、「間(ま)」です。

文字と文字のあいだ、筆を紙に落とす前の、ほんのわずかな沈黙。次の一手を打つ直前の、一瞬の静寂。

この「間」があるからこそ、書に呼吸が生まれ、見る人の心を打つのだと、改めて思わされました。

では、脳科学的には、この「間」はどう捉えられるのでしょうか?

まず、間を取るという行為は、単なる休憩ではありません。

意図的なタイミング制御(intentional timing control)であり、これには小脳(cerebellum)と基底核(basal ganglia)が重要な役割を果たしています(Ivry RB, Spencer RM. Curr Opin Neurobiol. 2004;14(2):225-232)。

小脳は運動のタイミングを、基底核はリズム感を、それぞれ司っている。

だから「ここだ」という絶妙な間を取れるかどうかは、
この2つの脳領域の連携にかかっているのです。

また、間を置くことで脳内では一時的に前頭前野(prefrontal cortex)の活動が高まり、次に取るべき最適な行動の選択肢を吟味するプロセスが働きます(Coull JT, Nobre AC. Nat Rev Neurosci. 2008;9(12):857-869)。

つまり、間を置くことは「考えていない」わけではなく、むしろ
「最も深く集中している状態」
だと言えるのです。

さらに興味深いことに、間の取り方が上手い人ほど、脳のデフォルト・モード・ネットワーク(DMN)と
エグゼクティブ・コントロール・ネットワーク(ECN)の切り替えがスムーズであることがわかっています(Beaty RE, et al. Trends Cogn Sci. 2016;20(2):87-95)。

つまり、内省(DMN)と行動(ECN)を瞬時に行き来できる脳の柔軟性が、
美しい「間」を生み出しているわけです。

書道とは、墨の黒い線だけでなく、そこに生まれる「空白(white space)」までもが作品になる芸術。

そして、その空白は、まさに脳のタイミング調整によって生み出されるのです。

筆を持ち、深く息を吸い、一瞬の静寂を抱きしめる。

その瞬間、書き手の脳と体と心は、完璧な一致を見るのかもしれません。


美しい書を書く人は、何が違うのか ーパフォーマンス書道における即興性と創造性の脳科学ー

美しい書を書く人は、何が違うのか
ーパフォーマンス書道における即興性と創造性の脳科学ー

本日19時、半蔵門はゴルフ医科学研究所にて「響墨の会」。

書家・白石雪妃さんをお招きし、ソプラノ歌手とのコラボレーションによるパフォーマンス書道が開催されます。

ちょうどゴールデンウィーク前ということもあり、直前でキャンセルされる方も出てしまったのですが、
もし、奇跡的にご予定の空いている方がいらしたら、ぜひお越しください。

筆と音楽が響き合う、心が震えるような夜になるはずです。

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あらかじめ決められた文字を書くのではない。
その場の空気、音楽の流れ、観客の気配――

すべてを感じ取りながら、即興で文字を紡いでいるのです。

では、即興で美を生み出すとき、脳の中ではいったい何が起きているのでしょうか?

まずわかっているのは、即興性(improvisation)が求められる場面では、通常の作業時とは異なる脳領域が活性化するということ。

特に内側前頭前野(medial prefrontal cortex, mPFC)が中心となり、自己モニタリングを一時的に緩めることで、自由な発想が生まれやすくなるのです(Limb CJ, Braun AR. PLoS One. 2008;3(2):e1679)。

つまり、頭で「こう書くべきだ」と考えすぎるのではなく、
身体感覚と直感に任せて筆を動かす。

そこに創造性の源泉があるのです。

さらに、創造的な活動中は、デフォルト・モード・ネットワーク(default mode network, DMN)と呼ばれる脳のシステムが活性化することもわかっています(Beaty RE, et al. Neuropsychologia. 2015;79:92-110)。

DMNは、ぼんやりしているときや、自己を内省しているときに働くネットワークです。

通常、集中すべきタスクがあるときは抑制されるはずのこの回路が、即興の最中には逆に活発になる。

つまり、パフォーマンス書道においては
「集中していながら、内なる自由も手放していない」
という特殊な脳状態が作られていることになります。

また、即興性の研究では、報酬系(reward system)、特に腹側線条体(ventral striatum)が関与していることも示唆されています(Benedek M, et al. Neuroimage. 2014;88:125-133)。

これにより、即興中には小さな「達成感」が連続的に生まれ、さらに創造性が高まる、というポジティブなフィードバックループが生まれるのです。

==========

そんな雪妃さんの書を見ていて、僕がふと思ったこと。

彼女の書く一文字一文字は、単に形が整っているわけではない。

まるで生き物が呼吸しているかのように、そこに命が宿っているのです。

「美しい書を書ける人は、脳と体のどこが違うのだろう?」と。

調べてみると、脳科学的には、まず運動計画(motor planning)と感覚フィードバック(sensory feedback)の高度な統合が不可欠だということがわかりました。

実際、補足運動野(SMA)、小脳(cerebellum)、一次運動野(M1)といった運動制御に関わる脳領域が、
特に強く活動していることが報告されています(Masumoto K, et al. Brain Res. 2006;1109(1):122-131)。

さらに、文字を美しく配置するためには空間認知能力(visuospatial ability)も重要です。

これは頭頂葉(parietal lobe)、特に上頭頂小葉(superior parietal lobule)の働きと関係しており(Kravitz DJ, et al. Neuron. 2011;70(3):576-592)、
バランス感覚に優れた空間構成力が求められます。

そして特筆すべきは、書家たちが筆を運んでいるとき、脳波にアルファ波(α波)が優勢になるという事実。

α波は、リラックスしながら高い集中状態にあるときに現れる脳波であり、いわゆる「ゾーン(flow state)」のときに観測されるものです(Katahira K, et al. Front Psychol. 2018;9:3000)。

つまり、美しい書を書いているとき、彼らの脳はリラックスと集中という、相反するようでいて補い合う絶妙なバランスを保っているのです。

また、身体面でも特徴があります。

柔軟な手首、滑らかな肘と肩の運動、そして体幹の安定。

これらは単なる器用さを超え、全身を通した緻密な運動制御を意味します。

特に書道では「気を通す(ki wo toosu)」感覚が大切にされますが、これは科学的にも、交感神経と副交感神経のバランスが取れている状態、すなわち自律神経機能の調和と関連していると考えられています(Kimura K, et al. Auton Neurosci. 2013;177(2):190-194)。

まとめると、美しい書を書く人には、
高度に統合された運動・感覚システム
優れた空間認知能力
リラックスと集中の同時発生(アルファ波優位)
全身の微細な運動制御
安定した自律神経機能
が備わっているということになります。

時に、同じ遺伝子を持つ兄弟姉妹であっても、才能がある者とない者に分かれてしまうのは、こうした微細な積み重ねの違いなのかもしれません。

過酷な世界ではありますが、それだけに、美しく書かれた一文字一文字には、見る人の心を震わせる「何か」が宿るのでしょう。

書とは、脳と体と心の三位一体。

一字一字のなかに、目には見えない、無数の調和が隠れている。

だからこそ、私たちはそれを「美しい」と感じるのだと思うのです。


ノートを取らない僕の勉強法

ノートを取らない僕の勉強法

実は今、美肌の本に続いて、「勉強法」の本を執筆しているところです。

僕も成人してからは、医師国家試験や専門医試験に始まり、MBA、そして医学、工学、薬学、経営管理学の四つの博士号や、船舶や固定翼、回転翼航空機の免許、国際Cレーシングライセンス、ワインソムリエの試験などなど、多くの試験を短期間に乗り越えてきたと思います。

新しい分野を学ぶ際に、まず行うことは、その教科の知識の総量を把握して、脳の中に本棚を作ること。その後に本という知識を順序良く並べていくのです。

さらに、多くの人は、勉強といえば「きれいにノートをまとめる」ことを推奨していますよね。

でも、僕は少し違うアプローチをしてきました。

そう、僕は昔から、勉強のときにノートを取らない派なんです。

なぜか?

理由は二つあります。

ひとつは、単純に字が綺麗じゃないから。(笑)
せっかくまとめても、あとで読んでも読みにくいんですよね。

もうひとつは、まとめている時間がもったいないと思っていたからです。その時間があれば、もっと頭を使って「覚える」「理解する」ほうにエネルギーを使いたいと思っていました。一冊使いやすい本や参考書を決めて、そこにすべての知識を書き込むことをしてきました。

そんなわけで、僕はずっと「自分のノートを作らない勉強法」でここまでやってきました。

もちろん、小学生や中学生など、読み書きを覚える際の、思考の訓練のためにはノートをとる作業は必要です。

僕が言っているのは特に大学生以降の思考を重視した教養学のことです。

「ノートを取らない」という選択

ノートを取らないというのは、ただサボっているわけではありません。

情報をただ受け取るのではなく、自分の脳で直接整理し、記憶し、理解していく。

まさに、自分の思考を鍛えるための道なんです。

じゃあ、どうやって?

今日は、僕が実践してきた具体的な方法を、皆さんにもシェアしてみたいと思います。

1. 記憶定着を高めるコツ

ノートを取らないなら、その場で頭にしっかり刻み込むことが必要です。そのために僕が使ってきたのは、たった二つのシンプルなステップ。

● インプット直後の「1分要約」

何かを学んだ直後に、
「今聞いたことを1分でまとめるとしたら何を言う?」
と自分に問いかける癖をつけます。
声に出してもいいし、心の中でまとめてもOK。
要点だけを拾って、自分の言葉で再現することが大切です。

● 間を空けて「思い出しトレーニング」

記憶は、時間が経つとどうしても薄れていきます。
だからこそ、翌日・3日後・1週間後と間隔をあけて、「思い出す」練習をします。
ノートを取らない僕にとっては、この「思い出す力」が何よりの武器なんです。

2. 聞きながら構造化する練習法

ノートを取らない勉強では、聞きながら頭の中に地図を描く力が必要になります。
僕が意識しているのは、次の3つのポイントだけ。
テーマ(今日の話の中心は何か?「言いたい」ことを掴む)
柱(大きな論点はいくつか?)
過去の既存の知識とのつながり(それぞれがどう関係しているか?)

たとえば、講義を聞きながら、

「今日のテーマは◯◯だな」
「論点は3つに分かれるな」
「1番目と2番目はこうつながっているな」

そんなふうに、ざっくり頭の中でマインドマップを作るイメージです。
最初は難しいかもしれませんが、続けていくと自然にできるようになってきますよ。

3. 試験やプレゼンで生かす方法

この「ノートを取らない学び方」は、試験やプレゼンでも大きな力になります。

なぜなら、

体系的に理解できている
自分の言葉で説明できる
必要な情報をすぐに引き出せる

こういう力が、自然と身についているからです。

● 試験対策には「白紙再現トレーニング」

試験前には、白紙に今日学んだことを何も見ずに書き出す練習をします。

これはノートのようにきれいに書くのではなく、コピー用紙の裏紙に書きなぐるイメージ。微分積分以降の数学の展開や、それらを使った物理の公式などは、何度も書くことでそれこそ、指で覚えました。(笑)

わからないところがあれば、その部分だけを確認して補強する。

このサイクルを繰り返すだけで、試験本番でも頭の中がしっかり整理されている感覚になります。

● プレゼンには「ストーリー化」

学んだことを話すときは、

「最初に背景、次に問題提起、最後に結論」

というストーリー構成にまとめるクセをつけると、即興でも説得力のある話ができるようになります。

まとめ 〜ノートを取らない者こそ、深く学べる〜

ノートを取らないあなたは、単なる情報の受け手ではありません。

その場で理解し、組み立て、そして自分の血肉にする存在です。

ノートに頼るのではなく、自分の頭の中に「思考の地図」を描き、知識を「使える力」へと練り上げる。

この積み重ねが、確実に大きな力になると思うのです。


お金を払うタイプの出版企画

月に一度は送られてくる、お金を払うタイプの出版企画。

ほぼそのままゴミ箱に直行するんですが、昨日のAmazonでの新刊発表の翌日に、30ページに及ぶこの企画書が送付されてきました。可哀想ですが、なんとも間が悪いですよね。

とりあえず、自分の専門分野においては、英文論文書いて世界に発信していますので、お金を払ってのPR出版は無いです。

それとお金を払ってベスト100の名医に選びますとかいう企画も無いです。

出版社も大変かと思いますが、そういう企画ばかりやると、メディアとしての本の価値が落ちてしまうと思いますよ。


ナノテラスと医療革命 〜見えなかった世界が見える時代へ〜

ナノテラスと医療革命 〜見えなかった世界が見える時代へ〜

2024年3月に仙台・青葉山に完成した次世代放射光施設、ナノテラス(NanoTerasu)。いわゆる究極のスーパー顕微鏡です。

「ナノの世界を明るく照らす」という名の通り、この施設の誕生は、医療の未来にも大きな光をもたらそうとしています。何より、名前が素晴らしいなあ。

そのナノテラスが医療分野にどんなインパクトを与えるのか想像するとワクワクします。

思えば僕が科学に興味を持ったのは、小学生の時に祖母に買ってもらった顕微鏡が始まりです。ミクロの世界の魅力にハマったんですよね。

顕微鏡と医療の関係 〜1600年代から始まった物語〜

医療と「見る技術」の関係は、思った以上に古くから続いています。17世紀(1674年)、オランダのレーウェンフックが顕微鏡で初めて微生物を観察したとき、人類は初めて「目に見えない病原体が存在する」という事実に気づきました。
それまでは、病気は「悪い空気」や「呪い」だと考えられていた時代。微生物の存在を知ったことで、近代医学の扉が開かれたわけです。
しかし、当時の顕微鏡で見えるのはせいぜい細菌レベル。
ウイルスや細胞内部の細かい動きまでは、まだまだ手が届きませんでした。

光学顕微鏡、そして電子顕微鏡の登場 〜1800〜1900年代〜

19世紀末(1870年代)、アッベが「光学顕微鏡には解像度の限界がある」と示したことで、科学者たちは新たな道を探り始めます。そして1931年、ドイツで電子顕微鏡が開発され、ウイルスや細胞内部の微細な構造が見えるようになりました。
これにより、病理学、ウイルス学、がん研究など、医学研究は飛躍的に進歩していきます。
ただ、問題もありました。
電子顕微鏡では、生きた細胞のリアルタイムな動きは観察できない。しかも、電子線による損傷が大きいため、サンプルを「生きたまま」「自然な状態で」見ることができなかったんですね。

放射光施設の誕生 〜1990年代〜

「生きた細胞の内部を、ありのまま観察したい」
この医療・生物学界の長年の願いに応えたのが、放射光技術でした。
日本では、兵庫県にて1997年に大型放射光施設SPring-8が稼働を開始。ここではタンパク質の立体構造解析が進み、新薬開発に革命が起きたことを覚えている方も多いかもしれません。
実際、現在使われている多くの抗体医薬品は、放射光施設で構造解析が行われた成果によって開発されたものなんです。
ただ、SPring-8は「硬X線」が中心で、分子の動きや膜構造など「やわらかい世界」をリアルタイムで追うには限界がありました。

ナノテラスがもたらす新しい医療応用 〜2024年からの挑戦〜

そして、2024年。
東北大学でナノテラスが正式に運用を開始されました。
ナノテラスは、これまでより格段に柔らかい軟X線領域を、超高輝度・超安定で提供できるのが最大の特徴です。
これが、医療分野にどう革命をもたらすのか——いくつか例を挙げてみますね。



1. がんの早期発見・治療への応用

がん細胞の表面に存在する「がん特有の膜タンパク質」や「微細な変化」を、リアルタイムで、しかも生体そのままの状態で観察できるようになります。これにより、超早期のがん診断技術が大きく進歩する可能性があるんです。
たとえば、手術前に「がんの広がり」をナノレベルで正確に把握できれば、より正確な摘出が可能になりますよね。

2. 創薬(新薬開発)の加速

これまで薬のターゲットとなるタンパク質は、凍結結晶化してからしか観察できませんでした。でもナノテラスでは、生きた細胞膜上で薬剤がどんなふうに作用しているかをリアルタイムで可視化できる。
これが可能になると、薬の効果をより早く、より正確に評価でき、新薬開発のスピードと精度が飛躍的に向上します。

3. 再生医療・細胞治療への応用

再生医療の分野でも、幹細胞の「分化の過程」や「細胞間のナノスケールの相互作用」をリアルタイムで観察できるようになります。たとえば、移植用の細胞がきちんと目的の組織に成長しているかどうか、微細なレベルでモニタリングできるわけです。
これにより、再生医療の安全性と効果を格段に高めることが期待されています。

医療の「未来を照らす」ナノテラス

こうして見てくると、ナノテラスは単なる物質科学のための施設ではないことがよくわかりますよね。むしろ、医療分野にとっては「新しい眼」となり、「見えなかった未来」を現実のものにする力を持っている。

この光を使えば、

• 生きた細胞内部のナノスケール構造
• 次世代電池内部のリチウムイオンの動き
• 量子材料中の電子の挙動

こういったものを、破壊せず、リアルタイムで観察することが可能になります。

しかも、ナノテラスは「産業界にも広く開かれた施設」です。興味深いですね。

基礎研究だけでなく、新薬開発や素材開発、エネルギー革新などにも直結することが期待されています。


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