仏道修行と神経科学——瞑想と扁桃体の関係をめぐって
先週のことになりますが、2023年に一緒に得度をした真言宗の仏道学院の同期会が催されました。
久々に再会した面々と、当時の思い出話に花を咲かせる中で、「瞑想の医学的効能」についての話題が自然と浮かび上がってきました。

僕は鎌倉生まれなのもあって昔から仏像巡りが好きで、この写真も2019年のタイの国際学会招待講演の際にボロブドゥール遺跡まで足を伸ばした時のもの。瞑想のスタイルですね。
洋の東西に関わらず、宗教的・修行的な側面から語られることの多い「瞑想」ですが、現代神経科学の視点からその効果を検証してみると、扁桃体(amygdala)を中心とした興味深いメカニズムが浮かび上がってきます。

1. 扁桃体の機能と役割
扁桃体は大脳辺縁系に属し、情動の生成・調整、特に「恐怖」「不安」「怒り」といったネガティブな情動に関与する神経核です。視床下部や前頭前皮質と連携し、心拍数や血圧を上昇させるなど、身体的なストレス反応を誘導します。
この神経核は進化的に古い「旧脳」に属し、処理能力が限られているため、過剰な刺激が加わると容易に過活動状態となり、パニック反応を引き起こします。実際、不安障害、PTSD、うつ病、自律神経失調症などとの関連が、多数の神経画像研究によって示されています。
こうした扁桃体の暴走を鎮めるには、視覚以外の五感を用いたリラクゼーションが鍵となります。具体的には
アロマセラピーによる嗅覚刺激
生演奏などの音楽による聴覚刺激
食事による味覚刺激
入浴や温泉による触覚刺激
そして不安を「言語化」することにより高次脳での再解釈を促す
というものです。
先週も話題に上がったのですが、実は視覚は最も新しい脳の感覚器です。系統と辿ると光を感知する葉緑体とにていますが、葉緑体(chloroplast)は原始的な光合成細菌(シアノバクテリア)が真核細胞に取り込まれて共生したものである一方、視覚の光受容系は細胞内共生とは異なり、宿主自身のゲノム内で進化した光感受性タンパク質(オプシン)を基盤としています。共有項としては、視覚と葉緑体光合成の双方において光を吸収する色素(クロモフォア)が使われている点です。視覚ではレチナールというビタミンA由来の色素がオプシンに結合して光を感知。葉緑体ではクロロフィルが光子を吸収し、電子を励起させて化学エネルギーへ変換。という流れです。ちょっと脱線しましたね。
2. 瞑想と扁桃体の構造的変化
マインドフルネス瞑想(Mindfulness-Based Stress Reduction, MBSR)が脳の構造そのものに変化をもたらすことを示した代表的研究に、HölzelらによるMRI縦断研究があります(Hölzel BK, et al. Psychiatry Res. 2011;191(1):36–43)。
方法:8週間のMBSRプログラムに参加した健康成人16名を対象に、前後でMRI撮像を実施し、Voxel-Based Morphometryを用いて灰白質密度を解析。
結果:右扁桃体の灰白質密度が有意に減少(p < 0.05)。
解釈:ストレスに関与する扁桃体が構造的に変化し、主観的ストレスの評価が低下した。
3. 前頭前野との機能的結合の変化
瞑想は扁桃体そのものだけでなく、感情制御に関わる前頭前野(特に背外側および腹内側領域)との結合性にも影響を与えます。
Functional MRI研究により、瞑想実践者では、扁桃体から前頭前野へのトップダウン制御が強化され、感情の抑制能力が向上していることが確認されています(Taylor VA, et al. Soc Cogn Affect Neurosci. 2011;6(1):55–64)。
4. 自律神経系への影響
瞑想によって扁桃体の活動が抑制されると、交感神経の過剰な働きが緩和され、副交感神経優位の状態へと移行します。
Tangらの研究(Tang YY, et al. Proc Natl Acad Sci USA. 2009;106(37):15445–50)では、短期的な瞑想トレーニング後に呼吸数・心拍数の減少、皮膚電気反応の低下が観察され、これが扁桃体の活動抑制と関連していると報告されています。
5. 臨床的意義
うつ病、PTSD、不安障害といった精神疾患に共通する特徴として、扁桃体の過活動が挙げられます(Shin LM & Liberzon I. Neuron. 2010;65(6):823–837)。瞑想はそのような過活動を薬物に頼らず抑制する手段として注目されています。
また、扁桃体の調整は、ストレス耐性や社会的行動の安定、認知機能の維持にもつながる可能性があります。
6. 結語——瞑想は「脳を再構築する技法」である
瞑想は単なる精神統一やリラクゼーションではなく、神経構造そのものに可塑性をもたらし、扁桃体を中心とした情動処理系を再調整する「脳の再構築技法」として再評価されています。
特にストレス関連疾患を抱える現代人にとって、瞑想は神経科学的にも有効性の裏付けがある補完的治療法であることが、こうしたエビデンスによって明らかになってきているのです。