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【“数式嫌い国家”の政治家たち─早慶文系エリートと理系リテラシーの断絶】

【“数式嫌い国家”の政治家たち──早慶文系エリートと理系リテラシーの断絶】

ニュースを見ていたら、ある政治家がAI規制の議論で「ChatGPTはインターネットを検索しているだけ」と発言していた。

もちろん間違いではないが、生成AIの原理や応用倫理への理解には到底及ばない。こうした“理系リテラシー不足”は今に始まったことではない。

◆“科学を知らない政治”の危うさ

COVID-19の対応では、専門家会議と政治判断の間に深い溝があった。今後AI、合成生物学、宇宙安保といった超技術社会を迎える中で、政治家が理系リテラシーを欠くことは、国家存亡の危機に直結しかねない。

◆日本の政治家は理系出身が少ない

OECD比較でも、日本の国会議員における理工学系学位保持者は10%未満とされ、ドイツ(約40%)、韓国(約35%)、中国(約50%)と比べ極めて少ない。

日本の政治エリートは法学部出身が圧倒的多数を占め、政策立案も法律解釈や制度設計が中心で、科学的エビデンスや技術選択の基盤理解が弱い。

◆「理科や数学は不要」という受験構造

早稲田政経、慶應法や経済など、日本の伝統的“文系頂点ルート”には理科がない。数学も数IAのみ、場合によっては不要。つまり、彼らは中学理科と高校初級数学で受験を終える。

そうして“知のエリート”として政治家となり、科学技術立国ニッポンの未来を議論しているのが現実だ。

◆法律と制度設計の限界

政治は法律を作る仕事だ。だから法律学部出身者が強い。それ自体は問題ない。ただ、現代社会のあらゆる問題は科学技術の理解なしに語れない。

AI規制法も、量子暗号通信網整備も、バイオセキュリティ法も、科学的知識なしに条文を作れば、無意味か危険か、どちらかだ。

◆本当の意味での“文理融合”

僕は思う。

「理系科目ができる政治家を増やせ」と言いたいのではない。

必要なのは、“理系的思考”を持つ政治家だ。

理系的思考とは、

• わからないことを放置しない
• 仮説を立て、検証する
• 数字と現象をセットで理解する
• エビデンスで意思決定する

この思考法は、政治家だけでなく全ての文系エリートに必要なリテラシーだ。

◆数式嫌い国家の行く末

江戸期、蘭学を学ばぬ政治家は無能とされた。明治期、工部大学校を作れぬ政治家は国賊と罵られた。

21世紀の今、AIもゲノムも量子も理解できぬ政治家が、この国の未来をどう語れるだろう。

僕は願う。

日本が再び、“文理融合の叡智”を誇れる国家となる日が来ることを。

◆理系リテラシー向上の処方箋

1. 理系基礎教育の必修化
文部科学省の科学技術白書(2021)でも、STEM教育の強化は提言されているが、政治家候補者の研修には反映されていない。英国のように、全政党の候補者スクールでサイエンスコミュニケーションを導入すべきだ。

2. 科学顧問制度の拡充
英国にはGovernment Chief Scientific Adviser制度があり、各省庁にChief Scientific Adviserを置いている。日本では総合科学技術会議(CSTI)があるが、政治家個人が科学顧問を任用する仕組みはない。

3. 政界とアカデミアの人材交流
韓国はKAIST(韓国科学技術院)と政治家を結ぶ短期集中プログラムを設け、ナノテク、AI、バイオ倫理を政策決定者向けに教育している。

4. 理系人材の政治参画促進
長期的には、理系博士課程修了者が政治に参加しやすい制度改革が必要だろう。日本の博士人材は企業就職率が高く、政界進出は稀である。


【ソマチッドと波動医学そして祈り─“見えないもの”を巡る医療界の外縁】

【ソマチッドと波動医学そして祈り──“見えないもの”を巡る医療界の外縁】

久しぶりにソマチッドや波動医学の話を耳にした。
ソマチッドなんて単なる埃のブラウン運動だろう。波動やエネルギー医学も科学的には再現性がない。こうして全てを否定するのは簡単だ。

しかし、21世紀に入り測定技術は飛躍的に進歩した。もしかしたら、かつて“トンデモ医学”と呼ばれたものが、セレンディピティやパラダイムシフトとして医療史に刻まれる日が来るのかもしれない。

思えば、細菌や清潔という概念すらなかったわずか150年前、瀉血こそが医学だった。エイブラハム・リンカーン大統領も、治療のために血を抜かれすぎて命を落としたと言われている。

その前の何千年もの間、人類は祈りによって病を治そうとしてきた。
ストレスが健康を蝕むことは今や常識であり、信じることでストレスから解放されるなら、それだけで一定の治癒効果があるのだろう。

果たして──

「ソマチッドや波動医学が、本当に医療界を変える日は来るのだろうか。」

◆ソマチッド──微小生命体仮説の系譜

カナダのガストン・ネサンが提唱した“ソマチッド”は、通常の顕微鏡では見えない微小粒子であり、癌や免疫異常の診断指標になるとされた。

しかし現代医学の世界では、再現性や生理学的役割の説明が十分ではなく、公式には認められていない。

それでも、この“見えない微小粒子”の概念は、人々に「病気の根本原因を知りたい」という終わりなき探求心を呼び起こした。

◆波動医学──量子論との誤解

一方、波動医学は量子力学と混同されやすい。

量子論における“波動”とは、電子や光子の確率密度分布を示す波動関数のことだが、スピリチュアル文脈で語られる「身体の波動」や「エネルギー周波数」とは全く異なる。

それでも患者は、“量子”という言葉に科学的権威を感じ、波動医学に安心感を抱くことがある。

◆波動治療の現在

ただし、波動医学の中には、科学の評価を受ける分野も存在する。
例えば電磁場を用いた治療は、整形外科やリハビリの分野で応用されている。

しかし、“気”や“非物質的波動”としての治療法は、依然としてエビデンスという壁を越えられないままだ。

◆医療は科学と物語の二層構造

結局、ソマチッドも波動医学も、科学的医療としては苦しい立場にある。一方で、患者がこれらに救いを見出す心理的側面は無視できない。
医療とは科学である前に、人を癒す営みであり、患者が自らの物語の中で回復を信じる力を尊重することもまた重要なのだ。

宗教は信じる事から始まるが
科学は疑う事から始まる。

万能と思われる現代医学の治療法も、新たな研究分野でもあるアンチエイジング治療も、一度は疑ってみる事が必要かもしれない。

ただし、最終選択は、自己責任で。

「世界には、まだ見えていないものがある。だが、それを解明しようとする意志こそが、科学を前に進める。」


自費診療とエビデンス──“医療崩壊前夜”の徒然

【自費診療とエビデンス──“医療崩壊前夜”の徒然】

「結局、医療はエビデンスだけでは回らない時代になったのだな」と思う。

厚生労働省の中医協資料(令和4年度・2022年度)によれば、コロナ関連補助金を除くと、一般病院の赤字割合は実に69.7%、一般診療所でも29.5%に及ぶという。
さらに、2024年度診療報酬改定後に実施された日本医師会等6団体の緊急調査では、医業赤字病院が68.9%、経常赤字病院も61.2%に達したと報告されている。
つまり、病院の約7割が赤字という現実。

僕の2006年のMBA学位請求論文テーマはこうだった。

“Conversion of Corporate Structures in Japanese Medical Institutions – Strategies for Strengthening Hospital Management Including Incorporation as Joint-Stock Companies”
日本の医療機関の法人形態の転換―医療機関の株式会社化を含む病院経営の強化策について―

「保険診療だけでは医療機関経営は難しい。レーザー医療機器などアンチエイジング医療を経営の補助エンジンとし、医療機関の株式会社化まで視野に入れた経営改善をすべきだ。」
もちろん医師としては、医療のクオリティを少しでも上げたい。医学はエビデンスに基づいてこそ科学だからだ。

しかし現実には、医療以外の医師業務は多彩化し、疲弊し、鬱となり、燃え尽きて去っていった医師たちを、僕は数え切れないほど見てきた。
思えば、人付き合いが苦手な医師にとって、保険診療はある意味で楽園だったのだろう。
厚生労働省の診療報酬体系に守られ、患者は黙って来院し、処方箋を書き、検査をし、点数が加算される。もちろん救急や在宅など激務はあるが、患者との関係は「主治医と患者」という役割で成り立っていた。

しかし、自費診療に舵を切ると状況は一変する。
患者は「お客様」となり、応対力、説明力、空間演出力、そして“また来たい”と思わせる人間的魅力まで問われる。

そして今、この自費診療の世界で静かに起きていることがある。

──エビデンスを無視した自由診療の乱立だ。

美容医療、アンチエイジング、予防医療の分野では、医学的根拠よりもマーケティング、SNS映え、インフルエンサーとの提携が収益を左右する。PubMed検索をしてもデータがほとんどない施術やサプリメントが、堂々と高額で売られている現実がある。
そんな中、この国の医療の脆弱性を感じずにはいられない。
国民医療費抑制を盾に、政治不信の矛先をそらすために続けられてきた医療費削減。自立した経営機関として成り立たなくなる医院が今後さらに増えるだろう。

その結果としての──
医療崩壊。

この言葉はパンデミックの専売特許ではない。診療報酬の伸び悩みと、自費診療市場の無秩序な拡大が同時進行する今こそ、現実味を帯びてきている。
エビデンスに殉じるか、エビデンスを捨ててでも生きるか。
医学の世界で叩き込まれた信念と、経営者として生き残るための戦略。その狭間で、今日も志の高かった、多くの若い医師たちが、黙って舵を切っている。


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