【新国際学会周遊記──キラキラ星、その音楽的魔法の源泉】
週末のN響の番組は、藤田真央とN響、至高の共演と題して2025年5月30-31日、第2038回NHK交響楽団定期公演(NHKホール)にて、指揮シュレキーテ、ピアノは藤田真央氏。披露されたのは、エルンスト・フォン・ドホナーニの作品、《童謡(きらきら星)の主題による変奏曲》Op. 25でした。
あの“キラキラ星”を題材とした変奏曲──まさに珠玉のひとときでした。
レビューも軒並み絶賛。
「冒頭、ティンパニと共に響いた透明感のあるピアノの音色が、幻想的な世界を描いた」との声も聞かれ。
今や世界的なピアニストになった角野隼人さんもThe Ftist Takeでご自身のキラキラ星変奏曲を演奏していますね。

──そういえば、と思い出しました。
僕がピアノを習い始めて半年、小学校一年生の時、人生初のピアノ発表会で弾いたのがモーツァルトのキラキラ星変奏曲の1番、2番、そして5番だったのです。
まさに音楽の原体験。いま思い返しても胸が熱くなります。
子どものころから親しんできた旋律。しかしこの“キラキラ星”、単なる童謡と侮るなかれ。実は何世紀にもわたり作曲家たちの“腕試し”として輝き続けてきた、深遠なる音楽遺産なのです。
○歴史の旅──“Ah! vous dirai-je, maman”から“キラキラ星”へ
その起源は18世紀、フランスのシャンソン《Ah! vous dirai-je, maman》(1774年)に遡ります。
このシンプルな旋律が音楽史の表舞台に登場したのは、1781年頃。モーツァルトが12の変奏曲(K.265)に仕立てたときでした。
19世紀にはイギリスの詩人ジェーン・テイラーの詩《Twinkle, Twinkle, Little Star》(1806年)と結びつき、英語圏の童謡として定着。
さらに明治期、文部省の《幼年唱歌集》(1901年)を通じて日本に渡来し、あの誰もが知る“キラキラひかる”という詩と共に国民的童謡となったのです。
たかが童謡、されど童謡──その航路は音楽文化のグローバルジャーニーそのものでした。
○旋律美の秘密──音楽理論と脳科学が教える“心地よさ”の正体
なぜこれほど記憶に残る旋律なのか?
それは実にシンプルな音楽的要素に支えられています。
完全五度と完全四度を中心とした心地よいハーモニー
AABA型の親しみやすい反復形式
ドレミファソラシド(Cメジャースケール)のみの音使い
脳内報酬物質(ドーパミン)を誘発する期待と充足のパターン
僕も自分の本の「音楽は名医」にも書きましたが、予測できるから心地よい」の法則を地で行く楽曲です。思えば代表がそれがキラキラ星なのですね。
子どもも大人も、素朴に心を揺さぶられる理由が、しっかり科学的にも裏打ちされているというわけです。
○クラシック音楽の“遊び心”──変奏曲は作曲家の腕試し
そしてこの旋律は、古今東西の作曲家たちの“創造力のキャンバス”として愛され続けてきました。
たとえば──
冒頭にも話した、モーツァルト《12の変奏曲》K.265:軽妙洒脱、古典派変奏曲の真骨頂。
これは聴けばすぐにわかります。サン=サーンス《動物の謝肉祭》第12曲「化石」:アイロニーを込めた一瞬の登場。
リスト《ユースフル・レパートリー》:ピアノ教育用ながら超絶技巧も潜む隠れ名曲。
フンメル《幻想曲と変奏曲》1804年:ウィーン風の洒落たサロン音楽として。
“子どものための童謡”でありつつ、“プロの腕試し”の楽曲でもある──これほど幅広い層を虜にする旋律は、他に類を見ません。
キラキラ星は“普遍的美”の音楽的縮図
古今東西、子どもからマエストロまで心を奪う旋律。そこに宿るのは、“シンプルの中に潜む知的遺産”です。
音楽史、脳科学、音楽理論の三位一体で成り立つ、美しさの原型。
次にキラキラ星を耳にするときは──ぜひ心の奥底で、この旋律が秘める深淵な美の力に思いを馳せてみてください。





