TakahiroFujimoto.com

HOME MAIL
HOME PROFILE BOOKS MUSIC PAPERS CONFERENCES BLOG MAIL CLOSE

BLOG 藤本幸弘オフィシャルブログ

BLOG|ブログ

【新国際学会周遊記──“AIがもたらす一人学会時代”】

【新国際学会周遊記──“AIがもたらす一人学会時代”】

「AIがあれば、一人でも学会ができるんじゃないか?」

ふと、そんなことを思ったのは、深夜のクリニックFの院長室で文献をAIに読み込ませていた時のことでした。
次々と提示される論文の要旨、引用文献の相関図、分野横断的な知見──まるで世界中の研究者とのラウンドテーブルに一人で座っているかのような感覚。
かつて国際学会は、現地に赴き、数日間にわたって議論を交わし、ようやく「世界の最前線」に触れることができる場でした。しかし、AIの知識圧縮と文献解析能力は、数年先の未来を先取りしてしまうような感覚さえ与えます。

例えば、PubMedの最新論文を瞬時に要約し、NatureやLancet、NEJMといった雑誌のトレンドを横断的に比較し、さらに過去10年の研究動向を一枚のマップにしてくれる。これまで飛行機で何十時間もかけて集めていた情報が、椅子に座ったまま数分で手に入る時代に入ったのです。

◆ AIと仮想討論のリアリティ

面白いのは、AIが「仮想討論相手」にもなる点です。
たとえば

「この論文の限界は?」
「他分野ではどう評価される?」

と問いかけると、AIは複数の立場を仮想的にシミュレートし、あたかもパネルディスカッションのような多層的な意見交換ができる。
これは従来の“受動的な学び”を超えて、一人で行う“模擬国際学会”のような営みを可能にしています。

◆ しかし失われるものもある

一方で、現地の学会が持つ「偶発性」──
廊下での立ち話、懇親会でのひらめき、ポスターセッションでの熱量は、まだAIには再現できません。

情報はAIから得られても、人間的な関係性や感情を伴う“ネットワークの生成”は現地参加でしか得られない部分でしょう。
AIが知識の獲得や仮想討論を肩代わりするなら、我々人間は「何のために学会に行くのか?」という問いに再び向き合う時代が来たのかもしれません。
もはやAIの前では、学会は「情報を得る場」から「人と会い、偶然を楽しむ場」にシフトしていくのではないでしょうか。

次に国際学会に参加する時、僕はAIと事前に“仮想予演”をしてから臨んでみようと思います。
一人学会で予習した上で現地に赴く──その融合こそが、これからの研究者の新しいスタイルになるかもしれません。


【新国際学会周遊記──“これから10年で変わる健康常識”】

【新国際学会周遊記──“これから10年で変わる健康常識”】

■ 変わるのは「データ」と「価値観」

医学常識が変わる理由は二つある。
1. 科学的データの蓄積(技術進歩による再検証)
2. 社会の価値観の変化(長寿・QOL・老化観の変化)
つまり、医学は「不変の真理」ではなく、「常にアップデートされる知恵」なのだ。

■ 「常識」は動く

かつて「胃潰瘍はストレスが原因」と信じられていた時代があった。ところが1982年、オーストラリアのBarry MarshallとRobin Warrenがピロリ菌を発見し、その後、除菌療法が主流となった。いまやストレス説を信じる人は少数派だろう。
同様に、コレステロールも長らく「低ければ低いほど良い」とされていたが、近年では極端な低コレステロールが認知症リスクと関連するという報告も出てきている。

■ ゲノムと個別化医療

さらに大きな変化の波はゲノム医療だ。
遺伝子解析が日常診療レベルに落ちてきたことで、かつて「万人共通の治療法」とされた標準治療は、今や「遺伝的背景ごとの最適化」が問われている。
この視点に立てば、「常識」は個人ごとに異なる時代が到来しつつあるとも言える。

■ 健康法のトレンド変化

たとえば食事法。
昔は「三食きっちり食べる」が常識だったが、いまや16時間断食(Intermittent Fasting)やケトジェニックダイエットが学術的議論に乗る時代だ。
また運動療法も、「有酸素運動中心」から「筋力維持=サルコペニア予防」へと重点が移っている。

■ これからどう向き合うべきか?

僕は、医学常識の変化を「不安」とは感じない。むしろ「学び続ける理由」だと思う。
10年前の知識では患者を救えない時代に、我々医療者自身が進化を止めた瞬間、医学は社会に置いていかれる。
“常識を疑うこと”が、医療における最大の安全装置だ。

■ 過去10年で評価が大きく変わったもの

① 脂質:悪者から必須栄養素へ
10年前の常識:「脂質は肥満や心疾患の原因。なるべく減らすべき」
今の常識:近年、脂質の質が重要視されている。オメガ3脂肪酸やMCTオイルは、脳機能や代謝改善に有効とされる一方、トランス脂肪酸は動脈硬化のリスクとされ完全に忌避されるようになった。

② 睡眠:早寝早起き万能説から「質と量」へ
10年前の常識:「早寝早起きは健康の基本」
今の常識:研究では7時間前後の睡眠が最も死亡率が低いとされ、睡眠不足だけでなく過眠もリスクと判明。
また、睡眠の質を高める深いノンレム睡眠が認知症予防に寄与するとの報告もある。

③ 運動:有酸素偏重から筋力重視へ
10年前の常識:「健康のためにはウォーキングやジョギング」
今の常識:加齢に伴うサルコペニア予防が注目され、レジスタンス運動(筋トレ)が推奨されるようになった。
筋肉は単なる運動器ではなく糖代謝やホルモン分泌にも関与する臓器として認識されつつある。

④ 腸内細菌:存在から“臓器”級の影響力へ
10年前の常識:「腸内細菌は消化を助けるだけ」
今の常識:マイクロバイオーム研究の進展により、腸内細菌が免疫・代謝・メンタルにまで影響を及ぼすことが判明。もはや腸は「第2の脳」と呼ばれ、腸内環境改善が全身医療の一環になっている。

⑤ 老化:不可避から“制御可能な現象”へ
10年前の常識:「老化は自然現象。防げない」
今の常識:テロメア短縮やエピゲノム変化のメカニズムが解明され、カロリー制限やNMN・メトホルミンといった介入が老化速度を遅らせる可能性を示唆。老化はもはや“不可避な運命”ではなく“緩やかにコントロールする対象”に。

■ 次の10年では、AI・ゲノム医療・再生医療の進展で、さらに常識は変わるだろう。むしろ、常識の変化に柔軟であること自体が、これからの「健康法の新しい常識」なのだ。

① 老化治療の実用化
かつては「老化=自然現象」とされていたが、いまや老化は標的化できる生物学的プロセスとして扱われている。
特に細胞老化を起こした細胞(セノセント細胞)を除去する“セノリティクス”の研究は、マウス実験で寿命延長と機能改善を確認。10年以内に関節症や認知症の予防として臨床応用が進む可能性がある。

② AIによる“個別健康ナビゲーション”
ウェアラブル端末とAIが連動し、睡眠・食事・運動・ストレスを24時間モニタリングする時代が到来する。
すでにAppleやGoogleが健康プラットフォームに投資を強化しており、「毎朝AIがあなたの今日の最適食事・運動・睡眠プランを提示する」未来は現実味を帯びている。

③ 遺伝子編集と病気予防
CRISPR-Cas9を代表とする遺伝子編集技術は、すでに一部の遺伝病治療に臨床応用が始まっている。10年後には、糖尿病や高血圧のリスク遺伝子を事前に補正する“予防的遺伝子医療”が現実化するかもしれない。

④ 腸内細菌と脳の連動
マイクロバイオーム研究は、腸内細菌がうつ病や認知症に影響することを示している。将来的には、腸内フローラ移植(FMT)によるメンタル疾患の治療が一般化する可能性がある。

⑤ 予防医療から“寿命設計”へ
予防医学はすでに「病気にならないため」から、「何歳でどの機能を保つか」という“寿命設計”へ進化していくだろう。人間ドックも、単なる病気の早期発見ではなく、AIが寿命曲線を予測し、介入プランを提示する時代になる。

■ 「常識が変わる未来」への心構え

こうした変化は、10年前ならSFの領域だった。
しかし今や、老化研究・AI・ゲノム・再生医療が交わり、「健康の常識」は指数関数的に書き換えられている。

僕はこう考える。
「医学常識が変わるのは、むしろ人類が進化している証拠だ」。


【新国際学会周遊記──“たるみに関わる立毛筋とレーザー脱毛の意外な関係”】

【新国際学会周遊記──“たるみに関わる立毛筋とレーザー脱毛の意外な関係”】

資生堂をはじめとする近年の研究で、加齢による「たるみ」に立毛筋(鳥肌を起こすあの小さな筋肉)が関わっているという報告を目にしました。これまで立毛筋は「痕跡器官」として、生理的にはほとんど役に立たないと思われてきましたが、どうやらそれだけではないようです。

立毛筋は毛包の中ほど、いわゆる「バルジ領域」と呼ばれる場所に付着しています。この領域には毛の再生を担う幹細胞が存在し、皮膚の構造維持や毛包の再生において重要な役割を果たすと言われています。つまり立毛筋は、単に鳥肌を作るだけでなく、肌の若々しさの根幹に関与している可能性があるのです。

一方で、現代の美容医療ではレーザーによる「永久脱毛」が一般的になりました。実はクリニックFでは脱毛施術は受けていないのですが、レーザー光を毛のメラニンに当てて熱を発生させ、毛包を破壊して毛が生えなくする──この技術は確立された安全性と効果があり、すでに多くの人が体験している治療法です。

しかしここでふと考えるのです。毛が無くなれば、立毛筋はその付着先を失う。では、その筋肉はどうなるのだろう?

毛包が縮退し、役割を失った立毛筋は、時間とともに萎縮し、やがて脂肪組織に置き換わる可能性があると考えられています。実際、男性型脱毛症の進行部位では、毛とともに立毛筋が消失し、皮膚が薄く平坦化していく現象が確認されています。これは顔のたるみにも影響しうる現象かもしれません。

もちろん、レーザー照射自体が立毛筋を直接「焼き切る」わけではありません。レーザーの標的はあくまで毛のメラニンであり、立毛筋はメラニンを持たないため、直後に筋繊維が損傷することはほとんどないでしょう。ただし、毛包そのものが長期的に消失すれば、それに付随する立毛筋も「使われなくなる」ことで徐々に萎縮していく──そんなシナリオが想像されます。

ここで難しいのは、「毛が無いことの美しさ」と「立毛筋の存在による張り」のバランスです。脱毛は清潔感や肌の見た目を整える一方で、毛包やその周囲の付属構造に変化をもたらす可能性も否定できません。

では、これからの美容医療において、私たちはどう向き合うべきでしょうか。

単純に「毛がある・ない」の美的な二択ではなく、皮膚の構造を一つの「生態系」としてとらえ、毛包・立毛筋・皮脂腺・真皮コラーゲンといった要素を総合的に考える時代が来ているのかもしれません。

鳥肌ひとつ取っても、そこには進化の名残や幹細胞の生態が隠れている。そう思うと、毛一本にも医学のロマンが詰まっている気がします。


【新国際学会周遊記──“マッサージ後の科学”を旅する】

【新国際学会周遊記──“マッサージ後の科学”を旅する】

なぜマッサージをしたら
水を飲めと言われるのか?
なぜ眠くなるのか?
果たしてデトックス効果はあるのか?

国際線に乗ると身体がガチガチになりますよね。凝り固まった肩と背中を解きほぐしてもらった後、セラピストに言われたひと言が印象的でした。

「しっかりお水を飲んで、ゆっくり休んでくださいね」

この“施術後の決まり文句”ともいえるアドバイス。改めて、なぜマッサージ後に水を飲み、眠くなり、さらには「デトックス効果」と言われるのか。医学誌や学会での知見を辿りながら整理してみました。

◆ 1. マッサージ後に水を飲む理由

マッサージは筋肉や皮下組織を圧迫することで血流・リンパ流を促進し、乳酸などの代謝産物を循環に戻します。これらを効率よく処理するために腎臓・肝臓が活発に働くので、水分補給は必須です。
さらに、施術中の副交感神経優位化によって腎血流が増え利尿が促されることも報告されており、軽い脱水を防ぐ意味でも水分補給は理にかなっています。

なぜ水分が必要なのか?

1. 筋肉の圧迫による代謝産物の移動
マッサージは筋肉や軟部組織を圧迫・伸展することで、局所の血流やリンパ流を促進します。その結果、乳酸や代謝老廃物が血管やリンパ系に流れ込みやすくなるため、それを効率的に代謝・排泄するには水分補給が不可欠です。

2. 血流増加による体液シフト
マッサージ後は末梢血流が増え、一時的に血管外から血管内への体液シフトが起こります。この変化で軽度の脱水状態になりやすく、特に高齢者や発汗の多い環境下では水分補給が重要となります。

3. 副交感神経優位による排尿促進
マッサージは自律神経のバランスを副交感神経優位にシフトさせるため、腎血流が増加し利尿が促されます。これにより、施術後に自然と尿意が増し、体液喪失が進むので水分補給が必要になるのです。

実際にどのくらい飲むべきか?

国際的なガイドラインでは、施術後30分以内に200〜300mL程度の水分を摂取し、その後も数時間にわたってこまめに補給することが推奨されています。
特にサウナや温熱療法を併用したマッサージではさらに多めの水分補給が望ましいとされています。

◆ 2. 眠気の正体

施術後の強い眠気は、自律神経の副交感神経優位化と深く関係しています。

1. 副交感神経優位による覚醒レベル低下
マッサージは筋膜や皮膚の圧刺激を通じて迷走神経を活性化させ、副交感神経優位へとシフトします。この状態では脳波がα波優位からθ波(浅い睡眠波)に近づき、覚醒レベルが低下しやすくなるのです。

  2. セロトニンとメラトニンの増加
皮膚や筋肉のストレッチ刺激は、中枢神経系でセロトニン分泌を促進することが報告されています。このセロトニンが夜間には松果体でメラトニンへ変換されるため、体内時計的にも眠気が増強されやすくなるわけです。

  3. 血圧低下と脳血流変化
マッサージ後には末梢血管拡張に伴って軽度の血圧低下が起こり、それにより脳血流も一時的に変化します。これが眠気を誘発する「低覚醒状態」を生むのです。

  4. 乳酸・代謝物処理と中枢疲労
前回触れた代謝老廃物の移動に伴い、肝臓や腎臓が活発に働くことでエネルギーが消費され、“代謝性の疲労感”が中枢で眠気として表現されることも分かっています。

眠気は“回復プロセス”のサイン

つまり、マッサージ後の眠気は、神経系・内分泌系・循環系の複合的な変化による自然な回復反応といえるでしょう。これは“脳が安全モードに入った”サインであり、実際に施術後の仮眠が筋疲労回復や自律神経安定に寄与するという報告もあります。
つまり眠気は、身体がリラックスし、修復と再生に向けてシフトしたサインなのです。

◆ 3. 「デトックス効果」は本当か?

マッサージサロンの広告でよく目にする「デトックス」という言葉。特にリンパマッサージやアロマトリートメントでは「老廃物を流してスッキリ」といった説明が添えられます。しかし学会の場では、この「デトックス」という表現はしばしば議論の的になります。
実際に、この効果は科学的に裏付けられているのでしょうか?

“デトックス”という言葉の誤解

「デトックス」とは本来、医療の場では中毒や薬物の解毒(detoxification)を指します。たとえばアルコール依存症や薬物中毒患者に対する治療が典型例です。
しかし美容やリラクゼーション業界で使われる「デトックス」は、代謝産物や老廃物の排出促進という意味合いに変化しており、ここが誤解の温床になっています。
リンパが流れることで「体内の毒素が外に出る」という表現は科学的には不正確です。
リンパはあくまで免疫細胞やタンパク質の輸送路であり、老廃物の主要な排出経路は腎臓(尿)と肝臓(代謝)です。
「マッサージで毒素が流れる」という表現は誇張ですが、間接的に代謝や排泄をサポートするのは事実です。
リンパ流の改善:圧迫刺激によりリンパ管弁が開閉し流動が促進。
腎・肝機能のサポート:副交感神経優位化で内臓血流が増え、代謝・ろ過機能が高まる。
尿排泄の増加:循環の変化により自然な排泄が進む。
結果として、体内環境が整い「スッキリした」と感じる状態が生まれますが、これは科学的に見れば「毒素排出」というより“生理学的リフレッシュ”と表現する方が適切です。

◆ 結論:マッサージは“科学で説明できる癒し”

水分補給・眠気・デトックス。この3つは感覚的な現象ではなく、

• 代謝促進
• 自律神経調整
• 循環動態改善

という生理学的メカニズムが複雑に絡み合った結果なのです。
学会の知識とスパでの体験が重なった瞬間、僕は「癒しにも科学が宿る」と改めて実感しました。
次に受けるときは、水をしっかり飲み、少しの昼寝を加えてみる──それだけで回復の質がさらに高まるはずです。


カテゴリー