【新国際学会周遊記──スパイスの意味を探る】
様々なスパイスの効いたモロッコ料理をいただきました。
僕は医師なので、今までも栄養素の効能を考えることがありましたが、スパイスの意味は、整理して考えたことがなかったので、まとめてみました。
スパイスの意味は 「微量栄養素ではなく微量薬理学」 にあります。
食欲を亢進させ、消化を助け、病原菌を抑え、時に気分まで変える──。
医学的に言えば、スパイスは「食事と薬の中間」に位置する存在です。すなわち フード(食)でもあり、ドラッグ(薬)でもあるとも言えますね。
「スパイス」とは基本的に植物の 葉以外の部分(種子・果実・樹皮・根茎など)を乾燥させた香辛料 を指します。(葉を使うものは「ハーブ」と呼ばれることが多いですが、境界はあいまいです。)
◆学術的な数え方
国際的な植物学・食品学の文献によると、
世界で商業的に利用されるスパイスはおよそ100〜120種類程度 とされています。インドのスパイス研究所(Indian Institute of Spices Research)なども、主要スパイスは同程度の数で分類しています。
◆料理文化的な広がり
一方で、世界中の伝統料理まで含めれば、地域独自の小規模スパイスを合わせて 数百種類 に及びます。
例えば、エチオピアのベルベレに使われる「アフリカトウガラシ」や、日本の「山椒」、チベットの「ヒマラヤ岩塩に含まれる硫黄スパイス」など、地域限定のものも立派なスパイスです。
◆栄養素としてのスパイス
スパイスは基本的に「微量摂取」されるため、炭水化物・脂質・タンパク質といった主要栄養素の供給源にはならないのが前提です。
しかしながら、以下のようなファイトケミカル(生理活性物質)を豊富に含みます。
ショウガ:ジンゲロール(抗炎症作用、消化促進)
ターメリック:クルクミン(抗酸化、抗炎症、肝機能保護)
シナモン:シンナムアルデヒド(血糖降下作用、抗菌作用)
唐辛子:カプサイシン(交感神経刺激、代謝促進、鎮痛作用)
クローブ:オイゲノール(抗酸化、鎮痛効果)
カルダモン:テルペン類(消化促進、抗菌)
サフラン:クロシン(抗うつ、抗酸化)
つまりスパイスは「ビタミンやミネラル」というよりも、植物由来の薬理成分=第七の栄養素(ファイトケミカル) として意味を持ちます。
◆食欲亢進の意味
スパイスは香りや辛味によって嗅覚・味覚・消化管神経を刺激します。
この結果:
唾液・胃酸分泌を促進
蠕動運動を活性化
消化吸収をスムーズにする
たとえば、フェンネルやクミンは消化促進作用があり、インドでは食後に口直しとして噛む習慣があります。
唐辛子は内因性カテコールアミンを増加させ、交感神経を活性化 → 食欲増進にも抑制にも作用しうる(二相性)。
◆文化的・医療的意味
スパイスは歴史的に 「保存料」「薬」「食欲を呼び起こす香り」 という3つの役割を果たしてきました。
抗菌(シナモン、クローブ、唐辛子)
防腐(胡椒は肉の腐敗を抑制)
健胃・整腸(カルダモン、フェンネル)
つまり、栄養素の補給というよりは、
「食を安全にし、身体を調律し、食欲を整える」=調律栄養学的な役割 が大きいのです。
============
◆スパイスの分類
Ⅰ. 種子や実から生まれるスパイス
コショウ(ブラック/ホワイト/グリーンペッパー)
マスタードシード(黒・黄・白)
カルダモン(グリーン・ブラック)
クミン
コリアンダーシード
フェンネルシード
ナツメグ/メース(種子と仮種皮)
フェヌグリーク
いずれも「生命の核」である種子を使うため、香りが力強く、料理の中心軸を決める存在。
Ⅱ. 果実から得られるスパイス
唐辛子(チリ)
パプリカ
山椒・花椒
オールスパイス
ジュニパーベリー(ジンの香りづけ)
果実系は香りと辛味をバランス良く備え、料理にアクセントを与える。
Ⅲ. 樹皮から生まれるスパイス
シナモン(セイロン/カシア)
樹木の皮から削り取る香りは、甘く、どこか大地の力強さを感じさせる。
Ⅳ. 根や根茎からのスパイス
ショウガ
ターメリック(ウコン)
ガランガル
ホースラディッシュ
地中に潜む根茎は、スパイスの「記憶装置」。大地の栄養を濃縮し、強烈な辛味や芳香を宿す。
Ⅴ. 花やつぼみを使うスパイス
クローブ(丁子)
サフラン(雌しべ)
ナツメグのメース(仮種皮としても花に近い扱い)
花の部分は繊細でありながら華やか。まさにスパイス界の「香りの貴族」。
Ⅵ. 樹脂・その他の特異なスパイス
アサフェティダ(フェルラの樹脂、インド料理で必須)
バニラ(果実のさやを発酵熟成)
スターアニス(八角、果実と種子の両性)
樹脂や特殊果実は、料理に奥行きを与える「裏方の魔術師」。

