秋の暮 富士に寄り添う 人の影

藤本幸弘オフィシャルブログ
秋の暮 富士に寄り添う 人の影

【新国際学会周遊記──明鏡止水と脳科学の出会い】
「明鏡止水(めいきょうしすい)」という禅語をご存知でしょうか。
曇りのない鏡、波ひとつ立たない水面のように、澄み切った心境を表す言葉です。古くから武士や茶人の座右の銘としても愛されてきました。
では、この「明鏡止水」という心のあり方を、現代の脳科学はどう説明しているのでしょうか。

◆ストレスが脳を曇らせる
ストレスを感じると、体内ではアドレナリンやコルチゾールが分泌されます。これが過剰になると、理性的な判断を担う前頭前野の働きが鈍り、代わりに感情を司る扁桃体が暴走します。
その結果、心はざわつき、鏡にホコリがかかったように物事を正しく映せなくなります。
◆心を澄ませる科学的アプローチ
一方、瞑想や深呼吸といった「静けさの実践」は、自律神経を整え、扁桃体の過剰な活動を抑えることがわかっています。さらに短期間の瞑想トレーニングでも、前頭前野の働きが高まり、集中力や自己制御が改善するという研究結果があります。
つまり「止水」とは、神経科学的に言えば前頭前野の機能を最適化し、余計なノイズを取り除いた状態なのです。
◆瞑想との関係
「明鏡止水」の境地は、まさに瞑想が目指す状態と重なります。
・止(サマタ)
仏教瞑想の基本に「止観(しかん)」があります。「止」はサマタ瞑想にあたり、呼吸や対象に集中し、心の動きを止めて静けさを得る方法です。これは「止水」に相当します。
・観(ヴィパッサナー)
「観」は洞察の瞑想で、心を澄ませたうえで物事をありのままに観ること。曇りのない鏡に真実を映す「明鏡」の境地に通じます。
脳科学的にも、瞑想は前頭前野と島皮質の活動を高め、扁桃体の反応を抑えることが報告されています。
つまり「瞑想」と「明鏡止水」は、東洋思想と現代科学が交差する点にあるのです。
◆医療現場に生きる「明鏡止水」
外科手術中の医師を近赤外分光法で調べる研究では、熟練した医師ほど余計な脳の活動を抑え、必要最小限の神経ネットワークだけで判断していることが示されています。
これはまさに「波立たぬ水」「曇りなき鏡」の境地。経験が心を整え、最も効率的な脳の働きを導いているといえるでしょう。
◆日常生活でのヒント
1日の中で数分だけ「呼吸に集中する時間」を持つ
大事な判断をする前には「一度立ち止まる」
感情が揺れたら、鏡を拭くように「リセットの習慣」をつくる
深呼吸で「止水」をつくり
心を澄ませて「明鏡」を磨く
これらはすべて、「明鏡止水」の心境を科学的に支える方法です。その積み重ねが、ストレスに強い脳、共感力の高い心を育てます。
□おわりに
禅僧が説いた「明鏡止水」は、単なる精神修養の言葉ではなく、現代の脳科学から見ても最も合理的な心の使い方でした。
心を整え、鏡を磨き、水を静めること。それはストレス社会を生き抜く私たちにとって、最良の「脳の健康法」なのかもしれません。
【新国際学会周遊記──団塊ジュニア世代の思想と時代】
2025年、団塊の世代が後期高齢者となり、日本社会の「世代交代」が加速しています。
その次に社会の主役として浮かび上がるのが「団塊ジュニア世代」です。
人口規模は約800万人──団塊に次ぐ巨大コホートであり、日本の平成から令和への変遷を体現してきました。

□団塊ジュニア世代の三層構造
◆青年期──受験戦争と競争社会
背景:1970年代前半に生まれ、人口が多いため常に「過当競争」の中で育った。
学歴社会のピーク期に直面し、受験戦争・偏差値教育の象徴的世代。
思想傾向:努力と成果を重んじ、競争を勝ち抜くことが当然とされた。
ただしバブル経済の余韻もあり、若年期は「消費社会」やブランド文化を享受。
キーワード:受験戦争、偏差値社会、ブランド文化、ヤンキー文化、カラオケ世代。
◆壮年期──就職氷河期と格差意識
背景:バブル崩壊直後に社会に出たため「就職氷河期」に直撃。
正規雇用に恵まれず、非正規・派遣社員となる人が多かった。
思想傾向:団塊のように「体制順応」できず、閉塞感や将来不安を抱えやすい。
一方で、インターネットや携帯文化を吸収し、新しい価値観や働き方を模索。
キーワード:就職氷河期、ロスジェネ、非正規雇用、失われた10年、IT草創期。
◆中高年期──個人主義と多様化
背景:いまや50歳前後から中高年層に。
親世代からの資産継承を受けつつ、教育費や介護を担う「サンドイッチ世代」でもある。
思想傾向:バブルと氷河期の両方を経験したため、現実主義的。
会社への忠誠心よりも、個人生活・趣味・副業・ネットワークを重視。
キーワード:多様な働き方、副業、自己投資、デジタルネイティブ予備軍。
団塊ジュニア退場のインパクト(2040年前後)
〇政治
投票行動では「団塊とミレニアルの橋渡し役」。
格差体験があるため、社会保障や雇用政策に敏感。
〇経済
資産は「団塊からの継承」が大きく、格差の拡大を助長する可能性。
消費は「モノよりコト」、デジタル消費に最も早く適応した世代。
〇社会・文化
80年代サブカル、90年代ポップカルチャーを担い、日本文化の輸出(アニメ・ゲーム)に直結。
「団塊的集団性」と「ゆとり的個人性」の中間に位置する。
〇医療・介護
2035〜2045年にかけて後期高齢者となり、日本の医療需要「第二の山」を形成。
ただしデジタル技術に慣れているため、オンライン診療やAI介護の導入が比較的スムーズ。
〇教育
「受験戦争を経験した最後の世代」として、教育に対する投資意識が高い。
子ども世代には「多様性・グローバル教育」を重視する傾向。
まとめ──団塊ジュニアの思想地図
青年期:競争社会と受験戦争
壮年期:就職氷河期と格差意識
中高年期:個人主義と多様化
団塊ジュニアは「競争」「格差」「多様化」をキーワードに生きてきた世代であり、団塊世代のように社会を大きく作り変える力は持たなかったものの、むしろ「時代の矛盾を体現した存在」として歴史に刻まれます。
そして2040年以降、彼らが退場する時、日本社会は再び大きな変容を迎えるでしょう。
【新国際学会周遊記──2025年、団塊世代退場のキー・イヤー】
2025年も残すところ4ヶ月。
この年は日本の社会構造にとって、大きな転換点となります。
なぜなら、1947〜49年生まれの団塊の世代が、すべて75歳以上──すなわち後期高齢者となる年だからです。
かねてから「2025年問題」と呼ばれてきた節目が、いよいよ現実のものとなりました。
団塊の世代は、日本の戦後史そのものを体現してきた世代であり、その思想や価値観もまた「戦後日本の変遷」を映し出しています。大きく整理すると、次のような特徴があります。

1. 青年期──戦後民主主義と反体制の高揚
背景:戦後教育を最初に一斉に受けた世代。憲法9条、平和主義、人権教育など「民主主義」が骨格となった。
思想傾向:学生運動や安保闘争に象徴される「反体制・反権力」の意識。「自由」「平和」「平等」を強く志向。
マルクス主義や社会主義思想に触れる人も多く、全共闘運動に結びついた。
キーワード:反戦、全共闘、革新自治体、社会運動。
2. 壮年期──経済成長と体制順応
背景:高度経済成長により、就職・結婚・マイホーム購入・自家用車といった「生活モデル」を実現した世代。
思想傾向:若い頃の反体制意識は影を潜め、企業戦士・中間管理職として体制に順応。
「勤労こそ美徳」「会社が家族」という価値観。
消費社会を楽しむ一方、生活防衛意識から「安定志向」が強まった。
キーワード:終身雇用、企業社会、消費文化、安定志向。
3. 高齢期──個人主義と現実主義
背景:バブル崩壊とリストラ、年金・医療問題を経験。社会保障の最大の受益者層となった。
思想傾向:
「自分の生活を守る」現実主義的な保守性。
家族や地域への帰属よりも個人生活を重視。
「自由な老後」を志向し、趣味・旅行・学び直しなど多様な生き方を展開。
キーワード:個人主義、シニア市場、自己実現、生活防衛。
まとめ──団塊思想の三層構造
• 青年期:反体制と理想主義
• 壮年期:経済成長と体制順応
• 高齢期:個人主義と現実主義
つまり、団塊の世代の思想は「戦後民主主義の申し子」として出発し、やがて経済成長の担い手となり、今はシニア層として個人主義的に生きる──という三段階の変遷を経てきたといえます。
□2025年から始まる変化
1. 政治への影響
高齢者票の減少
団塊の世代は投票率が比較的高く、社会保障や年金政策に強い影響を与えてきました。彼らが退場すると、高齢者層の「圧倒的な票の力」は弱まり、若年〜中年層向けの政策が相対的に重視されやすくなります。
世代交代の加速
いまだに政治や経済界の要職に就いている団塊世代が引退すれば、次世代リーダーの登用が加速します。
2. 経済への影響
資産の大移転
日本の個人金融資産の多くは団塊世代が保有しており、彼らの退場は史上最大規模の「相続と資産移転」を意味します(野村総研試算:約1,400兆円が今後数十年で移動)。
消費の変化
団塊世代は旅行・自動車・高級品消費を牽引してきました。彼らが退くと「モノ消費」から「コト消費」「デジタル消費」へシフトが加速。
3. 社会・文化への影響
価値観の転換
団塊世代は「大量生産・大量消費」「終身雇用」「マイホーム主義」の象徴的世代。
彼らが退場することで、「多様な働き方」「シェアリング」「脱物質主義」など新しい価値観がより社会の中心に。
地域社会の空洞化
団塊世代は退職後、地域活動の担い手にもなってきました。彼らの退場で地域コミュニティの人材不足が深刻化する可能性。
4. 医療・介護への影響
医療需要のピークを過ぎる
団塊世代が後期高齢者(75歳以上)となる2025年問題をピークに、徐々に医療・介護需要は落ち着き始める。
介護人材の再配置
需要の構造が変化し、在宅医療や地域包括ケアの仕組みも見直しが進む。
5. 教育への影響
教育観の変化
団塊世代は「受験戦争」「学歴社会」の洗礼を受けた世代。彼らの退場によって、「学歴偏重」から「スキル・実務経験重視」への価値転換がさらに進む。
世代間教育投資のシフト
祖父母として孫に教育費を出してきた世代の退場は、教育費負担を親世代がより直接に担うことになり、教育市場の縮小や多様化が進む。
6. 安全保障への影響
戦争体験の記憶の希薄化
団塊世代は戦後すぐに生まれ、「戦争体験を持つ親の世代」から教育を受けた最後の世代。彼らの退場で、戦争や占領期の記憶が社会から急速に薄れていく。
防衛政策の転換
平和主義的な志向が相対的に弱まり、安全保障をめぐる国民的合意形成に変化が出る可能性。
7. 宗教・精神文化への影響
伝統的信仰や儀礼の断絶
団塊世代は冠婚葬祭や地域行事の担い手でもあった。退場とともに、葬儀の簡素化・宗教儀礼の縮小・墓じまいが加速。
スピリチュアルや多様な宗教観の台頭
従来型の檀家制度に代わり、新しい精神文化(マインドフルネス、個人主義的信仰)が中心へ。
8. 技術・イノベーションへの影響
デジタル格差の自然解消
団塊世代の退場により「デジタルに不慣れな大集団」が消え、社会全体のデジタル移行が一気にスムーズになる。
イノベーション需要の変化
「高齢者向け市場」を牽引してきた団塊世代が消費から離れることで、次世代に向けた新しいテクノロジー(AI教育、脱炭素、メタバースなど)への投資が加速。
2025年はキー・イヤー
団塊世代が退場することで、日本は政治・経済・社会・医療のあらゆる領域で再設計を迫られます。
それは単なる人口動態の変化ではなく、価値観や文化の交代劇でもあります。
歴史を振り返れば、1975〜1995年は「冷戦と55年体制の終わり」、1995〜2015年は「グローバル化とIT革命の始まり」、2015〜2025年は「揺らぎの時代」でした。
その流れの延長線上に、2025年という「キー・イヤー」が位置しているのです。
結びに
団塊の世代が築き上げた日本社会の「光と影」を引き継ぎながら、次の世代がどのように再構築していくのか。
2025年は、その最初の扉が開く年。
まさに「団塊退場後の日本」が本格的に始まる瞬間なのです。
新国際学会周遊記──長期政権の光と影
日本の首相といえば短命が定番。
しかし時に、5年、あるいは10年近く政権を維持する「長期政権」が生まれます。長く続いたという事実は、それだけで国の方向性を大きく変える力を持ちました。
長期政権は、国の舵取りを安定させ、大きな改革を実現する「光」をもたらします。
しかし同時に、権力が集中することで生まれる「影」もまた避けられません。

ここでは代表的な長期政権を振り返り、それぞれの光と影を見ていきます。
◆吉田茂(1946〜1954)
光:戦後日本の骨格づくり
サンフランシスコ講和条約、日米安保条約締結、官僚主導体制の確立。戦後日本の基本構造を作り上げた。
影:米国依存が強まり、「吉田ドクトリン」は自立性の弱さを後世に残した。
◆佐藤栄作(1964〜1972)
光:沖縄返還と高度成長の安定化
沖縄返還を実現し、戦後日本の領土問題に区切りをつけた。経済的には高度成長の安定期を支え、ノーベル平和賞を受賞。
影:公害問題が深刻化し、成長一辺倒の影響が顕在化。自民党内の派閥政治も温存された。
◆中曽根康弘(1982〜1987)
光:行革と戦後政治の総決算
国鉄・電電公社・専売公社の民営化、防衛力強化、日米関係の深化。戦後型国家のシステムを大きく改革した。
影:規制緩和は不平等を拡大。リクルート事件など政治とカネの問題も後に露見した。
◆小泉純一郎(2001〜2006)
光:構造改革と劇場型政治
「自民党をぶっ壊す」と叫び、郵政民営化を断行。世論を直接味方につける劇場型政治を確立し、首相のあり方を変えた。
影:「痛みを伴う改革」で格差拡大を生み、社会的セーフティネットが弱体化。メディア依存型の政治手法は空洞化も残した。
◆安倍晋三(2006–07、2012〜2020)
光:アベノミクスと安保法制
デフレ克服を目指すアベノミクス、集団的自衛権の限定容認、日米同盟の再強化。戦後最長政権として、日本政治の安定と同時に新しい論点を残した。
影:森友・加計・桜を見る会など政権私物化への疑念。官邸主導の強化は、逆に「忖度政治」を生み、議会の形骸化を進めた。
光と影の同居
長期政権の「光」は、国の基盤を作り直すほどの力を持つ。
しかし「影」もまた深く、改革の副作用や権力の集中は、社会に歪みを残す。
医学でいえば、新薬が登場して病を治す一方、副作用による新しい合併症が現れるのと同じです。
歴史に刻まれる長期政権とは、まさに「効能と副作用を併せ呑む存在」なのです。