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BLOG 藤本幸弘オフィシャルブログ

エレキテル

昨日の大河ドラマ「べらぼう」を観ましたが、平賀源内のエレキテルが医療応用された点について触れていました。僕は医学博士と工学博士を持つ医師なので、この辺りまとめておこうと思いました。

エレキテルの写真はwikiよりお借りしました。

何故効果があるか? 一言で言うと

「電気刺激が細胞内のレドックスバランスを改善し炎症反応を抑制するメカニズムの一端」

であると言えます。

「レドックスバランス(Redox Balance)」とは、生体内における酸化(oxidation)と還元(reduction)のバランスを意味する概念であり、生命活動の根幹をなす重要な代謝制御機構です。

【1. レドックスの基本】

酸化:分子が電子を失う反応(例:NADH → NAD⁺)
還元:分子が電子を得る反応(例:O₂ → H₂O)

この2つは常に対になって進行し、エネルギー産生・解毒・シグナル伝達など、あらゆる生命活動の基盤となっています。

【2. 生体内でのレドックスバランス】

(A)主要なレドックス対レドックスペア 機能

NAD⁺/NADH エネルギー代謝、解糖系、TCA回路
NADP⁺/NADPH 抗酸化防御、脂質・核酸合成
GSH/GSSG(グルタチオン) 活性酸素の中和、細胞保護
FAD/FADH₂ 電子伝達系、酸化的リン酸化

(B)制御される主なプロセス

ミトコンドリアでのATP産生(酸化的リン酸化)
活性酸素種(ROS)の生成と解毒
細胞死(アポトーシス)や老化制御
炎症や免疫応答の調節

【3. レドックスバランス破綻と疾患】

レドックスバランスが崩れた状態を酸化ストレス(oxidative stress)と呼び、以下のような疾患との関連が報告されています。

神経変性疾患(アルツハイマー病、パーキンソン病)
癌(遺伝子損傷やがん抑制因子の失活)
生活習慣病(糖尿病、動脈硬化)
皮膚老化(紫外線による酸化ストレス)

【4. レドックスバランスを整える方法】

● 食事・栄養素

ビタミンC、E、A(抗酸化ビタミン)
セレン、亜鉛、マンガン(抗酸化酵素の補因子)
ポリフェノール(緑茶カテキン、赤ワインレスベラトロール)

● 補助療法

水素ガス吸入(選択的抗酸化作用)
 > Ohsawa I et al. Nat Med. 2007;13(6):688–694.

グルタチオン投与
 > Richie JP Jr et al. Eur J Nutr. 2015;54(4):525–531.

低出力レーザー(LLLT)によるミトコンドリア活性の正常化
 > Hamblin MR. Photochem Photobiol. 2011;87(4):956–963.

【5. 美容医療・アンチエイジングとの関係】

美容分野においては、レドックスバランスの維持が肌の若々しさと直結します。

紫外線による酸化ダメージの抑制
レーザー治療後の回復促進
光老化防止、真皮コラーゲンの保持

とまとめる事ができます。

この知識を頭に入れた上で、以下の説明を聞いてくださいね。

江戸時代のエレキテルと「電気を用いた治療」の歴史

日本におけるエレキテルの医療応用

江戸時代中期、博物学者の平賀源内は摩擦起電器「エレキテル」を修理・復元し、江戸で公開しました。エレキテルは静電気を発生させる装置で、見世物として人気を博しましたが、源内は痛みや麻痺の治療への応用も試みました。電気刺激による治療効果を期待する声もありましたが、当時の技術ではその効果を立証するには至らず、治療器としての普及には限界がありました。その後、大阪の蘭学者・橋本宗吉や佐久間象山らがエレキテルや電気治療器の研究を行い、日本でも断続的に医療応用が試みられました。

西洋における電気治療の先例

18世紀のヨーロッパでは、静電気や火花放電による電気療法がすでに試みられており、麻痺や癲癇、リウマチなどの疾患に使われていました。ベンジャミン・フランクリンは友人の麻痺に対して電気治療を行った記録もあります。その後、ボルタの電池発明を契機に、直流電流を使ったガルバニー電流療法が登場し、外科や神経疾患の補助療法として欧米で実用化されていきました。
現代医療における電気刺激・電磁場・マイクロカレント療法の生理学的効果

組織修復への効果

創傷部位に微弱な電流を流すことで、細胞増殖やタンパク質合成が促進され、肉芽形成や上皮化が進むことが報告されています。近年では、マイクロカレントを用いた創傷被覆材も開発され、熱傷や褥瘡の治癒促進に応用されています。

疼痛緩和(鎮痛効果)

経皮的電気神経刺激(TENS)やマイクロカレント療法は、ゲートコントロール理論や内因性オピオイド放出を通じて鎮痛効果を発揮します。慢性疼痛や神経障害性疼痛に対しても一定の効果が確認されており、疼痛管理の一環として活用されています。

抗炎症作用

微弱電流は、マクロファージのサイトカイン放出を抑制し、炎症反応を緩和する働きが報告されています。創傷治癒過程においては、炎症期から増殖期への移行を促進することで、治癒を効率化する役割を果たしています。

抗酸化作用(ROS除去)

電気刺激や電磁場は、細胞内の活性酸素種(ROS)を減少させ、抗酸化酵素の発現を高める作用を持ちます。これにより、細胞の酸化ストレスが緩和され、組織損傷や老化の進行を抑える可能性が指摘されています。パルス電磁場療法(PEMF)では、骨癒合や破骨細胞制御にも応用されており、電気刺激が細胞の代謝系やレドックスバランスに与える影響が注目されています。

医学×工学の分野は専門分野が微妙に重なりますが別のもの。相互理解が大切ですね。


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