名探偵コナン『隻眼の残像』に見る、“科学と情感のクロスオーバー”

六本木ヒルズの映画チケットが二枚。5月中に使わねば失効という事情も手伝って、ふと今回のコナンは凄いと聞いたのを思い出し、「名探偵コナン」の劇場版を選んでみた。
人生で初めて観るコナン映画。でも2025年4月18日に公開された『名探偵コナン 隻眼の残像(フラッシュバック)』は、シリーズ第28作にして堂々の話題作。公開初週末には興行収入34億円を叩き出し、以後も4週連続で1位を維持、日本映画界の春を賑わせている。
観客層は幅広いとは聞いていたが、平日の昼間という時間帯のせいか、館内は子供連れ中心。大人一人で座る自分の姿に、ほんの少しだけ気恥ずかしさを覚えたが、それも上映が始まるまでのことだった。
本作の舞台は長野・八ヶ岳連峰、そして国立天文台・野辺山。雪山を背景に、長野県警の大和敢助警部と毛利小五郎が物語の軸を担う。10ヶ月前、雪山で追跡中に狙撃され左眼を負傷した大和警部。雪崩に巻き込まれながら奇跡的に生還した彼の前に、野辺山での新たな事件が訪れる。
―科学を情緒で包む脚本術―
注目すべきはその構成だ。電波望遠鏡、時空、残像、記憶といった抽象的かつ科学的概念を、「未解決の事件」や「過去に取り残された想い」といったヒューマンドラマに転化させる脚本の妙。
脚本は櫻井武晴氏。2016年の『純黒の悪夢』でも知られる名手であり、今回も「科学を物語として翻訳する」手腕が光る。パラボラアンテナが動くその瞬間、過去の記憶がフラッシュバックする。まるで、宇宙の電
波が心の奥底に届くように。これは、科学にロマンを与え、心に火を灯す詩的装置である。
―野辺山の夜空と、子供たちのまなざし―
国立天文台・野辺山のシーンでは、巨大パラボラアンテナが宇宙の静寂を聞き取るかのように動き、星空の下で物語が進行する。科学的でありながら、視覚的にはまるで童話のような美しさ。
ここに子供たちはワクワクを見出し、大人たちはサスペンスの中に郷愁を見出すのだ。
―涙を誘う、小五郎の一滴―
本作で最も印象的だったのは、毛利小五郎の涙。普段は三枚目役の彼が、かつての戦友の“痛み”に静かに涙を流す。この一瞬に込められた情感こそが、大人の観客の胸を打った。そして子供たちには、「強い大人でも涙を流す」ことの意味を教えてくれた。
―なぜ子供にも響いたのか?―
視覚的魅力:雪山の幻想的な描写、夜空と星、そして巨大なパラボラアンテナ。科学機器ながら「巨大ロボ」のようなときめきもあり。
感情と科学のリンク:電波、記憶、残像を結びつけた構造が、心理サスペンスとSFの両方として成立。
多層的キャラクター性:コナン、哀、小五郎、大和警部。それぞれが大人の理性と子供の冒険心の橋渡しを果たしていた。
総じて言えることは、「科学」と「感情」が物語の両輪として機能していた、ということだ。これは、私たちが学会発表や医療技術の解説においても忘れてはならない原則である。
心に届く科学には、必ず“人のドラマ”がある。
そしてそれは、観る者の年齢を超えて、感動と記憶を刻むのだ。
登場キャラクター
江戸川コナン:主人公。
毛利小五郎:探偵。
毛利蘭:小五郎の娘。
大和敢助:長野県警警部。
諸伏高明:長野県警警部。
上原由衣:長野県警刑事。
黒田兵衛:警視庁管理官。
安室透(降谷零):公安警察。
風見裕也:公安警察。
灰原哀:コナンの協力者。
阿笠博士:発明家。
少年探偵団:吉田歩美、小嶋元太、円谷光彦。
制作スタッフ
原作:青山剛昌(小学館「週刊少年サンデー」連載中)
監督:重原克也
脚本:櫻井武晴
音楽:菅野祐悟
アニメーション制作:トムス・エンタテインメント
配給:東宝






